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女性教授が指導すると女性研究者は伸びない?

大炎上した論文の多すぎる問題点と理系分野にはびこる女性への偏見

鳥居啓子 テキサス大学オースティン校冠教授 名古屋大学客員教授

最後に追記(12月27日)があります。

ネイチャー姉妹誌に発表された論文が大炎上

 ネイチャー姉妹紙のNature Communications(NComms)に11月17日に発表された論文が大炎上している。アラブ首長国連邦にあるニューヨーク大学アブダビ校コンピューター学科から出された論文のタイトルは『キャリア初期の共同研究を介したインフォーマルな研究指導と若手著者の業績との関連(The association between early career informal mentorship in academic collaborations and junior author performance)』。論文データベースの大規模データを分析し、「若手女性研究者は女性指導者のもとでは成功しづらく、女性指導者は若手男性研究者を指導した方が得をする」と結論づけた論文である。

 すでに、超大御所の女性研究者である米国ロックフェラー大学冠教授でハワードヒューズ医学研究所正研究員のレズリー・ボッシァル教授(神経科学)がNComms編集部に論文撤回の勧告を公開文書で送っており、スタンフォード大学冠教授でやはりハワードヒューズ医学研究所正研究員のクリスティーン・ジャコブス-ワグナー教授(微生物学)、同大ジュディス・フリードマン教授(構造生物学・生化学)、同大生物学科長であるマーサ・サイアート教授(細胞生化学)ら女性教授有志が呼びかけた「女性科学者と女性研究者へのサポート」と題した公開嘆願書には、わずか3日で約2000人の教員や博士研究者、大学院生が署名した(筆者も賛同し署名)。

 その他、SNSでの大炎上は多数のブログ記事にもつながり、出版わずか2日後にはNComms編集部が『この論文は多数の批判にさらされており、編集部では論文の処遇を検討中』とする異例のコメントを出す事態になった。

 一体、何がそこまで問題だったのか。ここで解説したい。

論文データベースを「被引用件数」に注目して大規模解析

 学術論文を評価する指標に「被引用件数」というものがある。ある論文が、その後どれだけ他の研究者の論文に引用されたかという値で、その論文の分野内外への影響力を示す指標の一つとして使われる。

 ざっと解説すると、問題となっている論文は、

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筆者

鳥居啓子

鳥居啓子(とりい・けいこ) テキサス大学オースティン校冠教授 名古屋大学客員教授

1993年、筑波大学大学院生物科学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、イエール大学博士研究員、ミシガン大学博士研究員などを経て、2009年ワシントン大学教授、11年ハワード・ヒューズ医学研究所正研究員。19年からテキサス大学オースティン校ジョンソン&ジョンソンセンテニアル冠教授。井上学術賞、猿橋賞、米国植物生物学会ASPBフェロー賞など受賞。専門は植物発生遺伝学。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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