修士課程で双子の親に!? 40歳から進学・出産!? 4人を育てつつ大学院受験!?
2020年12月08日
「研究者っておカタイ人たちで、子育てもおカタイ方針なんじゃないの」「お金に余裕があって優雅で知的な子育てをしているとか」……もしかしたら、研究者の子育てと聞いたとき、読者がイメージするのはこんなことかもしれない。
しかし! その固定観念は間違っている。本稿の前編「とにかく普通じゃない『研究者の結婚生活』」のなかで、私たちが出版した書籍『研究者の結婚生活』を紹介した時にも、研究者に対する社会の一般的な認識が現実とどれほどの距離があるかについて触れた。今回、その姉妹本として出した『研究者の子育て』をめぐっても、やはり世間のイメージとの隔たりを感じる。
だから、みなさんと同じように「自分の子どものうんこを研究したい」という当然の欲求が生まれるし、実行に移そうと試みる……ん? おかしい? 「普通の人」はそんな欲求もなければ、まして実行なんてしない? うーん、やっぱり「研究者の子育て」は、世間とは違うのでしょうか。
今回の『研究者の子育て』には、一生懸命に子育てをする中で、いささか特異な好奇心に取り憑かれてしまう研究者が登場する。土の中の微生物を研究している李哲揆さんは、肥料や農薬を減らす地球にやさしい農業を目指して日々研究しているのだが、微生物そのものに興味があるので当然ながら、腸内細菌にも強い関心がある。
しかし、まさか他人に「うんこ、ちょうだい」と頼むわけにはいかない。そんなとき、最高の採集対象を見つけた。息子のうんこだ。定期的に取得できるし、すぐに冷凍庫で保存できる。実験の試料としてはとても優秀なのだという。
だがここで持ち上がるのは「日中だれが採取するか」という問題だ。この研究テーマをめぐっては、厳しい家庭内審査があり、結局はこの問題のためにリジェクトされたようだ(もし「リジェクト退散Tシャツ」を着ていれば、違った結果になっていたかもしれないが)。※リジェクトとは実験の許可が降りないことを表す研究者用語である。
子どもが2人いながら、李さんはこれまでに宮城から沖縄まで計4回、職場を変えている。そしてなんと、その度に奥さんも転職してきたという。だが子どもの小学校入学も近づいてきた最近では、家庭内で「生活環境はいつ安定するのか」という議題が持ち上がり、その度に鉄板焼きで心身を焦がされる思いがするのだとか。次の採用に落ちたら、アカデミックを離れる覚悟でもあるそうだ。
研究者は40歳を過ぎても不安定な雇用状況にいるケースが少なくない。もしかしたらこの状況は、少子化からなかなか抜け出せないこの国の縮図ではないか。ただ、なかには飛び抜けて例外的な成功体験もある。博士号を取得した時にはもう3児のパパになっていた田畑諒一さんだ。
おそらく大学院とか研究者の事情についてある程度の知識がある読者ならば、この「博士号取得時に3児のパパ」という言葉にぶっとんで、「これは小説か何か?」と勘違いしてしまうだろう。しかし、これは田畑さんに実際に起こった話。先に断っておくと、通常は博士号を取得する時はアラサーくらいの年齢なので、ふつうの生活ならば子ども3人はありえない話というほどでもない。
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