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コロナで心配されている「医療の逼迫」の実像

負担の一部集中が問題、法改正して医療体制の抜本的な改善を

米村滋人 東京大学大学院法学政治学研究科教授

再び高まる不安、要請される行動制限

 「第3波」とも呼ばれる新型コロナウイルス感染症の再拡大を受けて、再び社会的混乱が生じている。政府は、GoTo事業について、一部の地域に限って時限的な停止を表明したが、全体としては事業を継続する方針がとられている。その一方で、全国の患者数は4月7日の緊急事態宣言発出時よりも多くなっているとの報道もあり、感染拡大に対する国民全体の不安が増幅している。

拡大11月25日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会であいさつする西村康稔経済再生相(右)。並んで座るのは尾身茂分科会長=東京都千代田区、山本知弘撮影

 そして、再び、「医療の逼迫(ひっぱく)」が生じているとの指摘が多くなされ、外出自粛等の行動制限が必要であるとの議論が出現している。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、11月25日に公表した提言において、「医療提供体制及び保健所への負担」が深刻化しており、営業時間短縮や人の往来・接触の制限が必要であるとした。

 しかし、筆者は、爆発的な感染拡大(オーバーシュート)が起こっていない状況で、「医療の逼迫」を理由に大規模な行動制限措置を行うことには賛成できない。それは、医療に関する法制度を専門とする筆者から見れば、「医療の逼迫」の主な原因は日本の医療体制そのものにあり、医療体制を改善することが第一に必要と考えるからである。以下、そのことを順に説明していこう。

「医療の逼迫」の原因は説明されていない

 4月の緊急事態宣言も、医療体制の逼迫状況が生じていることが直接の理由となっていた。しかし、「医療の逼迫」がなぜ起こるのか、国・自治体からの説明やマスメディアによる報道は、驚くほど少ない。欧米各国では、日本よりもはるかに多数の新型コロナ感染者が出現しているが、医療の逼迫は必ずしも生じていない。たとえばアメリカでは、日本と同じく10月下旬から感染者数が急増し、最近は1日あたりの新規感染者数が17万~20万人の規模(日本のおよそ80倍、人口補正をしても30倍)で推移している。しかし、医療体制の逼迫の危機にあるとの報道はあるものの、現時点で医療は機能しているようである。この差はどこから来るのだろうか。

拡大新型コロナ患者を想定して病室を改造してつくった「陰圧室」。右奥の装置で室内の気圧を下げるという=2020年10月28日、名古屋市天白区の松川クリニック、木村俊介撮影

 報道ベースの情報としては、一般病床を新型コロナ対応の感染症病床に転換する場合にも、設備変更や人員体制の変更などかなりの準備作業を要し、直ちには対応できないというものがあった(7月22日の東京都のモニタリング会議で、山口芳裕・杏林大学教授が「東京の医療は逼迫(ひっぱく)していないというのは誤りだ」と発言したことに関連してこの種の報道がされた)。確かに、感染者が急増する段階では病床転換が追いつかず結果的に病床数が不足する可能性はあるが、それは一時的に生じる問題であり、日本の医療全体が逼迫し続ける理由にはならない。ここでは、より本質的な原因を探る必要があり、筆者には、

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筆者

米村滋人

米村滋人(よねむら・しげと) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

2000年東京大学医学部卒。東大病院等に勤務の後、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。日本赤十字社医療センター循環器科勤務を経て、2005年より東北大学大学院法学研究科准教授、2013年から東京大学大学院法学政治学研究科准教授、2017年から同教授。法学の教育・研究を行う傍ら、循環器内科医として診療にも従事。専門は民法・医事法。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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