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日本に表現の自由はあるのか

宗教改革の時代から弾圧と闘ってきたフランスの漫画との違い

山井教雄 漫画家

 10月16日、シャルリー・エブド誌に掲載されたムハンマドの漫画を、『表現の自由』の教材として生徒に見せたパリの中学教師、サミュエル・パティさんが、イスラム過激派の男に首を斬られて殺害されました。

 次の日、フランスの出版社から、漫画本の出版についてインタビューを受けました。良い機会だと思い、何%のフランス人がパティ教師の行為を支持しているか聞いてみました。60%くらいだろうと予想していたのですが、80%近くのフランス人が支持しているとの答えに驚きました。

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 さらに、21日にはフランスの教育の殿堂ソルボンヌ大学で国葬が営まれ、テレビ中継される中、『表現の自由』を守った英雄としてレジオン・ドヌール勲章がパティさんにマクロン大統領から授与されたのも予想を超えていました。

 マクロン大統領は、スピーチの中で、フランスでは、『表現・報道の自由』に、批判し冒瀆(ぼうとく)する自由、風刺漫画を見せる自由も含むと言い切りました。しかし、危惧していた通り、イスラム世界から反発がありました。ニースではイスラム過激派のテロでフランス人3人が犠牲になり、イスラム圏ではフランス製品のボイコットが始まりました。2005年のデンマークでのムハンマド漫画事件、2015年のシャルリー・エブド事件後にも起こったイスラミストの報復行動です。マクロン大統領も、フランス国民も覚悟していたことでしょう。

 日本では『テロは許されるものではないが、『表現の自由』を盾に、人が強く信じている宗教を冒涜する方も悪い』というのが平均的な反応でしょう。私にとって残念なのは、マスコミ、特に友人漫画家や、漫画評論家までもがこういった意見を持っていることです。

 私は朝日新聞のAERA(現在は朝日新聞出版発行)と、フランスの同様にハードな政治・経済週刊誌クーリエ・アンテルナショナル(ルモンド紙傘下、17万部)にレギュラーとして30年以上漫画を描き続けてきた経験から、日仏両国民の『表現の自由』に対する考えの違いがよく分かります。フランスでは、私の漫画がボツにされたことは一度もありません。しかし、日本では、フランスでは考えられない理由で、担当デスクにボツにされます。憲法が『表現の自由』をうたっている以上、検閲はあってはならないのですが、デスクの一存でボツにされ、その漫画は永遠に闇に葬られます。各新聞社の『自己検閲』という壁があるのです。

 ヴォルテールが言っているように、『私はあなたの意見に反対だが、あなたがそれを言う権利は命を張っても守る』というのが民主主義ならば、あらゆる角度の意見を紹介するのがジャーナリズムの役目だと私は考えています。シャルリー・エブドのムハンマド漫画は、下品だし、イスラム教に関する知識も薄っぺらで嫌いなのですが、描く権利、掲載する権利はあると思っています。

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筆者

山井教雄

山井教雄(やまのい・のりお) 漫画家

1947年東京生まれ。東京外語大スペイン語科卒業。91年漫画集「ブーイング」で文春漫画賞を受賞。93~96年に朝日新聞夕刊で「サミット学園」を連載。報道や表現の自由のために闘う漫画家の国際ネットワーク「Cartooning for Peace(平和のための風刺漫画)」のメンバーとしても活動している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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