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アビガン「承認見送り」に見る医療行政の混乱・迷走

安倍前首相の表明から、7カ月後の「手のひら返し」

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 厚生労働省は12月21日、アビガン(ファビピラビル)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬としての承認を見送った。安倍晋三前首相が在任中の記者会見で「5月中に承認」と国民に約束してから約7カ月後の「手のひら返し」である。この「アビガンの承認見送り」の学術的根拠はあまりに希薄であり、サイエンスの公正性、国民の健康を無視した、ルール違反に基づいている。ここまで来ると、混乱、迷走を通り越して、茶番劇である。

拡大新型コロナウイルスの治療薬として承認されたアビガン=富士フイルムホールディングス提供
 私は5月から、アビガンについて「早期承認制度」を用いて早急に承認すべきだと主張してきた。厚労省医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「早期承認制度」とは、最終の大規模臨床試験なしでいったん承認してその後は市販後調査によって確認するという点では、米食品医薬品局(FDA)が治療薬やワクチンの承認に適用した「緊急使用許可制度(EUA)」と同じである。しかしながら、その動機には雲泥の差がある。PMDAの「早期承認制度」は、コロナ禍の前の2017年の「平時」に、再生医療を経済成長の原動力にしようという国家戦略のために作られた制度である。この制度を用いてPMDAは再生医療製品(ハートシートやステミラック)を医学的根拠が不十分のままに乱発し、国内のみならず国際的にバッシングを浴びた。

 コロナ禍の緊急時にアビガンに「早期承認制度」を適用することは、平時における再生医療製品に対する乱発とは明らかに異なる。しかしながら、平時に再生医療製品は「早期承認」されたが、緊急時にアビガンは「早期承認」されず、かつ7カ月も経過してから厚労省が出した判定が「承認見送り」である。ここから見える日本の医療行政の問題点について論考したい。

理解を超えた迷走の始まり

 アビガンには次の三つの臨床試験が進められてきた。

①藤田医科大学を代表とする日本医療研究開発機構(AMED)特定臨床研究
②全国多施設への人道的供給による観察試験
③第3相プラセボ対照ランダム化比較試験

 今回の承認見送りは、③に基づいたものである。この試験結果は製造元である富士フイルム富山化学から9月23日に公表され、企画段階からデータ分析に至るまで厚労省の指導の下に、アビガンの有効性・安全性を公正かつ厳密に証明した。周囲の雑多な思惑に振り回されながらも真摯に治験に取り組んできた、製造元である富士フイルム富山化学をはじめとする関係者の方々には、心から敬意と感謝を表したい。


筆者

川口浩

川口浩(かわぐち・ひろし) 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

1985年、東京大学医学部卒。医学博士。米コネチカット大学内分泌科博士研究員、東京大学医学部整形外科教室助手・講師・准教授、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長などを経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医。国際関節病学会理事、日本軟骨代謝学会理事。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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