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アビガン「承認見送り」に見る医療行政の混乱・迷走

安倍前首相の表明から、7カ月後の「手のひら返し」

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 不可解な迷走は5月18日に始まった。①の中間解析(最終89例中の40例)の結果を、共同通信社が「アビガン、有効性示せず」という断定的なタイトルで国民に発信したのだ。臨床試験の「中間解析」は、強い副作用が出た場合に、第三者委員会が試験の中止の是非を判断するためのもので、中止しないのであれば、その暫定結果を「中間報告」するのはルール違反である。翌日に藤田医科大学が記者会見を開いて反論したのは当然であろう。

拡大アビガンの月内承認を目指す旨を表明する安倍前首相=2020年5月4日、首相官邸

 そして、なぜか同じ5月18日に、日本医師会の有識者会議がこれに迎合して「緊急時でも平時と同じ厳密な手続きで承認すべき」という、アビガンの早期承認に否定的な声明を出した。この声明は、日本の「早期承認制度」のみならず、COVID-19の治療薬やワクチン開発では国際常識になっている「緊急使用許可制度(EUA)」とも矛盾している。それどころか、この10日前の5月8日に、厚労省は米国でのEUAを受けてレムデシビル(米国ギリアド社)を、日本での治験ゼロで「特例承認」して国内市場に出している。

 そもそも、「医療が崩壊の寸前にある」と国民に危機感を訴え続けているのは、日本医師会である。付記すると、現在の日本医師会長は、自身が理事長を勤める札幌の病院の同門の非常勤医師が開発したステミラックの「僅か13例の観察研究での早期承認」に尽力してきた。

試験対象者の少なさが壁となり

 さて、この試験の89例の最終結果は、7月10日に藤田医科大学から記者発表された。「累積ウイルス消失率の調整後ハザード比は1.42で、アビガン投与群のほうが非投与群より効果が高い傾向が見られたが、有意差には達しなかった」という内容である。

拡大新型コロナウイルス感染症専用の医療施設の病室=2020年12月2日、東京都府中市

 研究代表者の土井洋平教授は、有意差が出なかった原因として、当時(第1波)の国内の感染状況では試験対象者数が小規模にならざるを得なかったことを挙げている。これを200例程度に拡大した場合には統計学的に有意差が出る計算だと述べている。事実、米国のレムデシビルにおいてハザード比が1.29であったにもかかわらず有意差が出たのは、1000例以上を対象とした試験だったからであろう。

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筆者

川口浩

川口浩(かわぐち・ひろし) 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

1985年、東京大学医学部卒。医学博士。米コネチカット大学内分泌科博士研究員、東京大学医学部整形外科教室助手・講師・准教授、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長などを経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医。国際関節病学会理事、日本軟骨代謝学会理事。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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