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地球科学者から見たファクターXとウイルス変異

新型コロナ感染率の大きな差は何に起因するのか

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

ロックダウンで通りの両側に並ぶ店がほぼすべて閉店したため、閑散としたローマの中心街=2021年1月5日、河原田慎一撮影
 欧州を襲っている新型コロナ第2波は、「クリスマスまでの我慢」という短期決戦型の対策で11月末に一旦収まりかけたものの、12月に入って南欧を除いて再拡大し、第2波Bとも第3波ともいうべき流行となっている。その結果、英国などでは2度目より厳しい都市封鎖となり、北欧ですら第1波、第2波の時の対策よりはるかに厳しい対策を強いられている。

 この再流行は、英国の場合は変異ウイルスによるものである可能性が高いが、欧州の他の国々では英国ウイルスの比率は低いから、季節(室内の乾燥や日照不足)など他の要素が効いている可能性のほうが高い。そもそもインフルエンザや風邪は冬に流行するもので、だからこそ第1波の時点から今冬が正念場といわれていたし、それが100年前のスペイン風邪から得られる教訓でもあった。

 日本も感染が急拡大して大問題になっているが、それでも今のところ、第1波と同様に欧米の10分の1程度の犠牲者で済んでいる。もっとも、その理由は不明で、「ファクターX」と呼ばれてきた。

 私は地球科学と太陽系科学が専門で医学的・生物学的なミクロなメカニズムは何も知らない。しかし、感染症の流行は気候が重要で、季節要因や地理的要因など地球的視点も無視できない。しかも、コロナの場合は全世界レベルで「感染者数」「死亡者数」「検査数」のデータがある(詳細データはOur World dataに、日本語データは札幌医大フロンティア研ゲノム医科学のサイトにある)。春先こそ精度が悪かったが、夏以降は各国とも精度が向上し、地球科学的なマクロ視点の考察も可能となっている。ウイルス変異の情報すらNextstrain公開されていて、誰もが自由にマクロな変化を追うことができる。そこで、ファクターXに関する各仮説を地球科学的なマクロ視点で検証し、ウイルス変異との関連の可能性も含めて、ミクロ視点の専門家の皆様へ問題提起を行いたい。

欧州の啓蒙が進んだ今も続く10倍の差

 第1波の結果、欧州では啓蒙が進んで秋以降はほとんどの人がマスクをつけ、検査もクラスター追跡も充実した。それでも第2波で日本と10倍以上の差が続いている。しかも第1波の被害を最小限で食い止めた東欧ですら大流行となった。いまや、日本並みに感染が少ないのはノルウェーとフィンランドだけだ(下のグラフ参照)。

アジアと欧州の国々の死亡率の推移。死因の1割に相当する値を点線で示した。
Our World data (CC BY 4.0)

 ファクターXは日本だけでなく、広く東アジア・オセアニアに及ぶ。東南アジアすら他地域より死亡率が少なめだ。同様の傾向は南北アメリカの中ではカリブ海諸国にのみ見られる(下の世界地図参照)。差が第2波まで続いていることまで考えると、これらの地域だけの共通点があるということになる。

コロナ世界地図:世界地図を見ると太平洋・大西洋の西部の島国が死亡率が低い。
Our World data (CC BY 4.0)

 これらの事実だけで、ファクターXに関して当初挙げられた候補のほとんどが「可能性が低い」となってしまう。例えば、

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