須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
この政治家にしてこのマスコミあり
緊急事態宣言発令を受け、1月8日のテレビ朝日「報道ステーション」に、菅義偉首相が出演した。その発言には何も目新しいものはなく、予想通りの内容の薄さであった。しかし、今回はそれを批判するのが目的ではない。そこに同席したアナウンサー、テレビ朝日政治部長、コメンテーターたちの質問やコメントへの失望を述べたいのだ。朝日新聞社の系列であるテレビ朝日の番組に対する批判であるからこそ、この論座はまさに適切な場であろう。
番組を見逃した方も、テレビ朝日のサイトから視聴できる。簡単にまとめておけば、緊急事態宣言、医療体制、東京五輪の3つのテーマが設定され、それに対して、アナウンサーの司会のもと、菅首相が意見を述べるというスタイルであった。さすがに、繰り返し批判されている下を向いた原稿棒読みは避けていたものの、単なる感想を並べ立てる迫力のなさは相変わらずだった。時折、うまく言葉が出てこない時には、アナウンサーがそれを補ったり、先回りしてフォローしていた。結果的に、首相よりもアナウンサーのほうがはるかに長時間発言し続けたはずだ。また、首相の発言には、多くの国民がより深く聞きたいと思うような曖昧な要素だらけであった。にもかかわらず、横にいた2名は、鋭く問いただすわけでもなく、あたかも国会での与党代表質問を彷彿とさせるような遠慮がちの質問しかできなかった。
例えば、緊急事態の対象拡大や延長の可能性について尋ねられると、「1カ月頑張ってやらせて頂きたい」。1カ月後に結果が出なければどうするつもりかとの質問にも、「仮定の質問には答えられない」との既視感のある回答。それらをさらに追及せずに、それで良しとする出演者には唖然とさせられた。
とはいえ、政治・国際でも経済・雇用でもなく、科学・環境の筆者に過ぎない私がなぜあえてこの問題を取り上げるのか。それは、大学院修了時の学位審査における公聴会・口頭試問との類似性が頭をよぎったからである。
毎年1月は、大学院学生の修士論文と博士論文の審査で、教員は大忙しとなる。私の所属する物理学専攻の場合、自分が研究室で指導する学生以外に、毎年平均して2〜3名の修士論文と、3〜5名の博士論文の審査員に割り当てられる。修士論文の場合は約1時間、博士論文の場合は約2時間の公開審査会において、提出者の発表および質疑応答がなされる。提出論文の内容と審査会での議論を総合して合否が判定される。
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