須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
この政治家にしてこのマスコミあり
修士論文が不合格となる例は極めて限られているものの、博士論文は(審査会までに取り下げられるものも含めると)大体1、2割が継続審査となる(理由は知らないが、博士論文の場合には不合格という判定は存在せず、半年から1年かけて修正した上で再審査を受けることになっている。これも教育的配慮によるものだろう)。博士論文の場合には、その内容が博士号の学位にふさわしいものであるかを客観的に判断するために、5名の審査員の中に指導教員は入らない。委員会での議論における忖度を排するためである(昨今の言葉で言えば利害関係者のコンプライアンスといったところだ)。
とはいえ、審査員すべてがその分野の専門家であるわけではなく、本質的な問題点の指摘だけではなく、単なる誤解や理解不足に基づく質問やコメントも少なくない(むしろ外国では、意図的に異なる分野の審査員を入れるのが必須とされていることもある)。しかし、それらに対して、科学的・論理的に説得力のある受け答えができなければ、合格とはならない(博士論文のほとんどが、審査会終了後数週間以内に、その議論を踏まえた修正を行い再提出が求められるのはそのためだ)。
さて、今回の菅首相の「報道ステーション」出演は何を目的として企画されたのか。本来は、1月7日の首相記者会見こそ、論文審査会の公聴会に対応するべきものだったはずだ。しかし、いみじくも「いま一度、御協力賜りますことをお願いして、私からの挨拶とさせていただきます」という結語の言い間違い(?)が象徴するように、下を向いた原稿棒読みの姿勢からは、あくまで他人事に過ぎず、首相としての自らの責任を国民に示す決意は何一つ感じられなかった。