問題ある人物から研究費のオファーがあったら、どうする?
2021年01月15日
米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボへの寄付金の問題をめぐり、伊藤穣一氏が所長職・教授職を辞任したのは2019年夏だった(ITmedia NEWS他各紙、2019年09月08日)。 問題になったのは、札付きの億万長者ジェフリー・エプスタインから巨額の寄付をたびたび受けていたことだ。伊藤氏や一部の教授が寄付金の出所を隠蔽しようとしたばかりか、プライベートでも「不適切な交流」をしていた疑いまで浮かび上がった。きら星のように著名人の名前が登場するこのスキャンダルの経緯と、そこから学ぶべき研究者として教訓を考えてみたい。
一方、相手方のエプスタインもまた極めて有名な人物だ。「札付きの億万長者」と書いたように、買春ばかりか未成年性的虐待で有罪判決を受けたこともある一方、多額の資産を持つ実業家として知られた。高等学校を飛び級で卒業した後、大学を中退して大手投資銀行に入行。金融に関する知識と人脈を身につけ、ヘッジファンドを起業して大成功を収めた。その一方で、性的目的で未成年の少女を多数、人身取引したとして起訴され、大スキャンダルに発展している。ヴァージン諸島に所有している自分の島に自家用ジェット機で往復し、未成年の少女らと乱交パーティーを開いていたことなどが報じられきた。
そんなエプスタインとの関係が問題となった今回のMITの事件は、その後どんな経緯をたどっているのか。日本ではほとんどフォローがないが、筆者はMIT(大学院)の卒業生なので、多少の追跡情報を得ている。日本でも、大学が研究資金を自力で外部から獲得すること(アウトソーシング)が主流となりつつあり、他人事ではない。ここで事実関係を洗い直し、考えたい。
米国の報道では、メディアラボが伊藤氏の指揮の下、エプスタインとの関係の広がりを隠そうとしたと見られている(ニューズウィーク日本版2019年09月18日など)。「伊藤と他のラボ職員は、エプスタイン本人や彼が関わった寄付からその名前を切り離すため、多くの措置を講じた」などと指摘された。伊藤氏は記事内容を否定したが、直後にメディアラボの所長を辞任。スター起業家の名声は一瞬にして失墜した。
その後、2020年の年明け(1月10日)にはMITが「ジェフリー・エプスタインとMIT」と題するリポートを公開した。それによれば、MIT学長と法人執行委員会が、法律事務所に事実関係の調査を依頼、59人にのべ73回インタビューし、61万の文書やメールをチェックした(グッドウィン・プロクター・リポート)。その目的は、次の諸点について事実関係を明らかにすることにあった。
エプスタインの寄付総額については当初、学長が80万ドルと推定したが、結局は総額85万ドル(約9千万円)に上ることがわかった。該当する額を、性的暴力・虐待の被害者のために寄付する予定だとしている。
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