受け手側は安易に行動を起こさないように自衛しよう
2021年01月20日
大江戸線の運転手の新型コロナウィルス集団感染は「共同利用する庁舎の洗面所の蛇口経由で広がった」というニュースを1月15日朝にNHKのラジオで知った。「え?」と思って聞いたが、その後同じ内容が何度か繰り返されていた。
関連する記事によれば「庁舎には始発電車の乗務に備えて運転士が泊まり込んでいる。保健所からは『歯磨きの際の唾液が付着した手で蛇口に触れたことにより、感染が広まった可能性が高い』との指摘を受けた」とのことであるが、このような結論に至る調査はどのようになされたのかの詳細はわからない。他の可能性(例えば運転士の詰所で三密になっていなかったのかなど)と比較して水道の蛇口が決定要因になったのはどういうエビデンスに基づくのだろうか。
さらに記事では、問題とされた蛇口は「手をかざすと自動的に水が流れるセンサー式ではなく、手で回すタイプの蛇口だった。今後はセンサー式への置き換えを検討する」という解決策を提示している。
このような報道がなされると、「水道はセンサー式でないと危ない」というメッセージが瞬く間に広まり、手で回す蛇口を極度に恐れたり、我も我もとセンサー式に変えようとしたりする動きが出ないか、それが心配である。実際、これまで何度も一つの報道で我々は踊らされてきた事実――例えばマスクやトイレットペーパーの買い占めなど――があるからだ。
加えて、センサー式の水道には停電時に使えなくなる、あるいは使うのにかなりの手間がかかるというデメリットがある(停電時には、自動水栓・大小便器自動洗浄システムが使えないのか | LIXIL|Q&A・お問い合わせ)。このことは、先の報道では一切報じられていない。もし、報道にあるように東京都交通局の水道をセンサー式に変えていくのであれば、相当の金額が使われることになるわけで、そのような場合にその方策のメリットデメリットを勘案せずに単に「集団感染が手で回すタイプの蛇口経由で広がった可能性が高いから」といった論理で進めるようなことがあっては大問題である。
上記の部分を書いた後に、いくつかこの報道に関して事実確認をしたという情報がネット上で公開されていることを知った。一つは、感染症が専門の神戸大学の岩田健太郎教授がツイッターやフェースブックで「この件、都交通局の担当の方とお電話して確認しました。許可を得てここで共有します。保健所の方はフォーマルな調査をしたのではなく(忙しいから)現場を短時間見て蛇口も可能性のある感染経路になるから気をつけて、と助言され(その他の助言とともに)、それを受けて都交通局が対応したのだそうです」などと書いたものである。
もう一つはDr.たかしさんがツイッターで「目新しいところだけ切り取って報道するんだよなぁ(困)日本口腔衛生学会からのコメントです」とつぶやき、「日本口腔衛生学会の会員向け」の資料を紹介したというものである。この資料は学会の会員のみが閲覧できるもののようだが、報道に至る経緯の詳細が記述されている。
今回の報道は一例であり、このような根拠が明確ではない「可能性」をある意味センセーショナルに訴えるものは決して珍しいものではない。そこでは、
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