医師会は「指定感染症の格下げ」のためにエビデンスを示せ
2021年01月22日
日本医師会の会長や幹部が盛んに国民の危機感をあおって、新型コロナ感染拡大の抑制に躍起である。最近は、政府や分科会の感染対策への批判まで始めた。これに対し、世論やメディアには厳しい反応が見られる。
「独自に対策も出さないで、他人まかせの批判ばかりのパフォーマンスには呆れる」「医師会は開業医の利益を守るための圧力団体に過ぎない」「最前線で身体を張って戦っている医師のなかには、医師会の会員はほとんどいない」……。
なかには、こうした医師会の動きの背景を「一部の公的病院ばかりに負担が集中している現状を、むしろ維持したいのが医師会の本音だ」などとする読み解きもある。感染者が増えて開業医に火の粉がかかるのを阻止するために医師会が国民に危機感をあおっている、という見方だ。
確かに、日本医師会の会長が「医療壊滅」などという言葉まで出して喧伝しているのは、エビデンスのない不毛な言葉遊びにしか聞こえない。だがさらに私が看過できないのは「戦争」という言葉を例えに使ったことである。
もちろん、日本の開業医全員がコロナから逃避しているわけではない。多くの先生方が、積極的に発熱外来を行って水際でのコロナ対策に貢献されている。そうした強い使命感を持った医師会員の方には、あの会長の軽率な発言はどのように聞こえるのであろうか。
一方で我々医師の間にも、「医師会の会員は全国の医師の半分程度なのに、医師会長が医師の総意を代表しているかのような発言は慎むべき」という意見がある。私自身も日本医師会の会員ではない。ただし、私は日本整形外科学会の会員であり、この点では実は日本医師会とのつながりがある。
戦後間もない昭和23年、GHQの指示に基づいて「日本医学会」が日本医師会の学術組織に位置づけられた。現在、この日本医学会には臨床部門(103学会)、社会部門(19学会)、基礎部門(14学会)の計136の専門学会が分科会として加盟している。日本の医師のほとんどはこれらの専門学会の会員であり、私の所属する日本整形外科学会も加盟している。私は医師会長の発言を「厚顔無恥な他人の戯言」と、他人事のように斬罪すべきではないのかも知れない。というわけで、あくまで医師会側の一員という立場で建設的な意見を述べる。
まず指摘したいのは、「学術専門団体」と自ら名乗っている日本医師会の行動が、学術的なエビデンスに基づいていないことである。医師会は、政府との役割分担を明確にして、独自の立ち位置をとるべきである。そして新型コロナ感染症の患者に対する医療提供体制の再構築をエビデンスベースで提示すべきだ。感染拡大の抑制について政府や分科会の対策に根拠のない介入や批判ばかりをするのは、建設的でない。
この1年間での新型コロナ感染症による死者数は約4500人である。一方、2019年の季節性インフルエンザによる死者数は3575人だ(厚生労働省人口動態統計)。重要なのは、これらの数字の背景である。インフルエンザにはワクチンも特効薬もあるが、新型コロナにはどちらもない。また、新型コロナ患者はインフルエンザよりも高齢者が圧倒的に多く、また基礎疾患として高血圧や糖尿病が多いことが、最近のフランスでの報告で示されている。基礎疾患として心疾患や呼吸器疾患が多いインフルエンザとは異なるのだ。
さらに、国内のインフルエンザの死者数は、医師が直接死因をインフルエンザと確定診断した数であり、上で述べた心・呼吸器疾患などの持病の悪化や、2次的な細菌性の肺炎による死者数は含まれない。これら間接死因を含めれば、インフルエンザに関連する死者数は年間で約1万人と推計されている。一方、新型コロナでは、重度の基礎疾患を患った高齢者が発熱してPCR検査を受け、たまたま陽性だった場合には、直接の原因でなくても「コロナ死」としてカウントされる。つまり新型コロナによる直接の死者数は4500人を下回り、インフルエンザよりも遥かに少ないと推測される。
新型コロナの致命率(致死率)は、第2波の時で0.9%と発表されている。致命率とは一般に、分母として感染者数を、また分子として感染が直接の原因となった死者数を基にして計算される。しかしながら厚労省が発表する致命率は、この分母を「届け出PCR陽性者数」に、また分子を「届け出PCR陽性者の中の死者数」として計算しているため、数値が不正確である。
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