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想像を絶する感染状況の英国で医療はなぜ崩壊しないのか

中央が情報を徹底的に収集し、トップダウンで指令

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

人口当たりで日本の10倍以上の感染者数

 英国では新型コロナ感染者数が昨年12月から急増し、新たに感染が判明した人数が人口100万人当たりで1004人というピークを今年1月8日に記録した。同じ日の日本は100万人当たり62人(いずれもOur World in Dataから)。その日本で医療の崩壊がかまびすしく語られているのに、英国では医療は崩壊していないという。なぜなのか。

ロンドン南部の二つの大病院と一つのクリニック、一つの地域病院をマネージするNHSエプソム・セントヘリエ病院トラストの情報部門副部長を務める米沢ルミ子さん
 英国の国営医療システム「国民保健サービス(NHS)」の職員で、ロンドン南部の病院群を管轄するエプソム・セントヘリエ病院トラストの情報部門副部長として働く米沢ルミ子さんから、日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)主催のオンライン茶話会で1月16日に話を聞くことができ、謎の一端が解けた。

 英国の医療は中央集権的に動いており、各病院の情報は常に中央に集められ、その情報をもとに各病院にトップダウンで指示が伝わる。第一波のときはかなり混乱したものの、夏の間に準備を整え、第二波が来たときには先々の患者数を予測し、それに合わせて病床を増やすオペレーションができているから医療崩壊という事態に陥っていないのだという。

 医療制度が日本とはまるで違うからと言ってしまえばそれまでだが、注目すべきは夏の間に準備万端整えたという点である。昨今、「日本は民間病院が多いから、コロナ病床が増えない」といった声が出ているが、それはあまりに表面的なとらえ方である。民間病院が多いことなど医療関係者はみんな知っていた。それを踏まえて、患者が増えたときにどうやりくりするかを夏の間に決めておかなかったことこそ本質的な問題だろう。

 日本の政府と医療界は、夏の間に冬に備えてもっと話し合うべきだった。日本医師会や全国医学部長病院長会議、国立病院機構、日本病院会、全日本病院協会、日本看護協会といった団体や保健所、自治体の代表を集めた「コロナ医療体制会議」を作って、患者が急増したらどうするか、シミュレーションをしながら検討を進めるべきだった。つくづくそう思う。

世界の医療制度は3タイプ

NHSの移動コロナワクチン接種センター=2020年12月14日、英国ロンドン、shutterstock.com
 世界の医療制度は3つのタイプに分けられる。英国のように税金でまかなう「国営型」、日本のように全国民が加入する公的保険でまかなう「社会保険型」、米国のように全国民を対象とする公的保険を持たない「民間保険型」だ。もっとも、同じ社会保険型でも日本とドイツの医療制度はかなり異なっている。また、医療制度が整備されていない国も世界には少なくない。いずれにせよ、新型コロナは、そんな医療制度の違いなどお構いないしに全世界を襲った。

 国営型の英国では、全国民が無料で医療サービスを受けられる。ただし、かかりつけ医が決まっていて、かかりつけ医がもっと高度な医療が必要と判断したときに限って大病院に紹介される。医療全体に統制が行き渡っていると見ることができ、患者にとっても医師にとっても自由度が少ないシステムと言える。

 一方、日本では保険証とお金さえ持っていけばどこの病院でも診てもらえるし、医師は自由に開業できる。自由度が大きいシステムと言えるが、欠点は開業医と病院、あるいは病院同士の連携が悪いことだ。統制がとれていないのだ。

患者データをリアルタイムで中央に集める英国

 米沢さんの話を聞いて、英国の医療の統制ぶりがよくわかった。英国のNHS病院(国立病院)は

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