伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(西部社会部)
1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、AERA編集部、科学医療部などを経て、2021年から西部社会部。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
再生数4000万超の動画づくりに隠された数学上達のコツとは
そのまま大学は中退し、塾の正社員に。結婚後は二人の子どもができたのを契機に専業主夫を選ぶ。妻が海外勤務になると、一家でロンドンに移住。その後、スロベニアに転勤になったころ、子どもが高校や大学への進学期を迎えるが、現地には日系の塾などない。「それじゃ、俺が教えるか」と決心し、ふたたび自分で猛勉強したことが、いまの土台になっている。
そんな鈴木さんを一躍有名にした動画が、「伝説の東大入試問題 π>3.05を証明せよ」だ。2018年4月に公開して以来、視聴数は200万回を超え、いまも伸び続けている。
第一印象では、さほどの難問ではなさそうに見える。円に内接する正六角形を描いて、その周の長さと比べれば、
π>3.0
ということは簡単に証明できるから、この正六角形より少し大きめの正多角形を内接させれば、たぶん証明できるのではないかな……。そんな見通しが立つだろう。
鈴木さんの動画では、計算しやすそうな正12角形で解いている。この道案内が、なんとも見事だ。まず「高校1年の1学期までの知識で解けます」と宣言して、視聴者を鼓舞する。そしてさらりと余弦定理を復習しつつ示しながら、内接する正12角形の一辺の長さを導き出す。
そして真骨頂はこの先だ。ただ計算した結果では、正12角形の辺の長さに、ルート2やルート3といった平方根が現れてしまう。これらの無理数を含んだ数が、円の直径の3.05倍より大きいことを示さねばならない。どうするか。はい、この先はどうぞ鈴木さんの動画をお楽しみ下さい。数学的に考えることの楽しさを堪能できること、間違いない。
ほぼ同じころに公開した「名古屋大学 z^6=64 の6つの解を求めよ」も、人気の動画だ。こちらも視聴数80万回を超すヒットとなっている。さて、6乗したら64になる数って、なんだろう?
答えのうちの二つが「+2」と「−2」であることは、すぐ分かる。だが問題は残りの四つ。この解法の魅力も、鈴木さんの動画をご覧いただきたい。残りの四つの解には、やっかいな虚数が出現するが、その理由を丁寧に導いていく過程で「虚数とは」「平方根とは」をめぐる確かな実感が得られる。そしてさらに後半では、「複素平面」を使って六つの解を一気に導いてしまう手順が説明され、一層の驚きに包まれるという展開だ。素晴らしい。
念のため付記すると、おそらく数学が得意な人ならば、そもそもこの動画で鈴木さんが示した手順を踏むことはない。なぜなら、もっと単純で短時間に解ける近道があるからだ。動画に付けられた視聴者コメントでも、そんな指摘が複数から出ている。
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