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謎のYouTuber鈴木貫太郎さんに学ぶ「数学の愛し方」

再生数4000万超の動画づくりに隠された数学上達のコツとは

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(西部社会部)

 でも鈴木さんの魅力は逆なのだ。近道ができる急傾斜の直線路ではなく、時間はかかるが一歩ずつ進めるゆるやかな回り道を、一緒に歩んでくれる。「誰もが登れる道順なら、こうですよ」という優しい導きが、鈴木さんの動画の主旋律になっている。昨年出版した光文社新書『中学の知識でオイラーの公式がわかる』の帯には、「ドラゴン堀江」の数学講師、ヨビノリたくみさんがこう賛辞を寄せている。「ここまで人間味あふれる授業を他に知らない」

数学と料理は同じだ

 訪ねたご自宅は、都内の一戸建て。動画を収録する部屋は2階にあり、カメラと照明、ホワイトボードが据えつけ状態になっている。隣にはキッチンがあり、そこでつい、プロ級の腕前とも噂される料理の話題になった。

 ——塾講師を辞めて専業主夫になれる自信があったのですか?
 掃除はできないけど、料理はできるので。普通の主婦とは違いますよ。包丁は研ぐし、きちんと出汁から取るし、冷凍食品もレトルトも使わない、買い物は毎日必ず行く、食材のストックはしない……。その日に食うものを、その日に買ってつくる。これが私のやり方です。 

拡大平方数の逆数すべての和を求める「バーゼル問題」をデザインした自作パーカー姿で取材に応える鈴木さん

——必要な道具と材料をしっかりそろえて、取りかかる……数学に共通しますね
 はい、秋山仁先生も「数学と料理は一緒だ」と言っています。

 ——鈴木さんも秋山さんも、ゴールを示されると道のりが見えるのでしょう
 いや、秋山先生と並べられるのは恐縮ですが、妻との違いはあります。妻は料理をするとき、ずっとレシピを見ながらやる。あれはダメ。私は最初に1回見るだけで、途中では見ません。「ああ、こうなっているんだ」と最初に確かめれば終わり。どんな料理も、使う材料と道具がそろい、最終ゴールが決まれば、もう途中の手順は必然的な流れになります。だからその流れを理解していれば、途中でレシピを見る必要なんてない。

 ——おお、まさに数学と同じです。でもその流れを理解できない人は、仕方なく丸暗記してテストを乗り切るけど、応用はできない。まるで自分です
 いちいちレシピを見ながら「次はこれ」「その次はこれ」とやっているうちは、その料理はできてもほかの料理はできない。数学も同じ。問題と解説のあいだを行ったり来たりしているうちは、まだ身についていないのでしょう。

フルマラソンは「サブ3.5」

 ……目からうろこが落ちた。なにかを「理解する」とは、そういうことだ。鈴木さんの解説動画の収録も、いったん録画が始まれば、途中で止まることなく一気に最後まで進む。リハーサルはやらないし、やる必要も無いわけだ。

 鈴木さんは言う。「もちろん、問題を解いていて分からなくなれば、途中で答えを見るのは仕方ない。でもそれで答えが分かったなら、もう途中の解き方は自分で組み立てないとね。それができて、やっと力がつく」

 鈴木さんは自分自身を「のめりこむタイプ」だという。趣味の自転車では、家族で90キロ先の富士五湖まで走る。10年ほど前に始めたマラソンは、月に200キロを走って練習を重ね、最初に出場したフルマラソンで4時間15分という立派な記録。さらにタイムを伸ばし、その後は3時間半を切っている。市民ランナーの目標である「サブ3.5」だ、すごい!

 準備を整え、きちんと手順を踏み、そしてドップリと「のめりこむ」。うーむ、なかなか自分にはできない。憧れるなあ。

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筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(西部社会部)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、AERA編集部、科学医療部などを経て、2021年から西部社会部。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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