下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授
カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
米国騒乱はなぜ起きたか——ガスは抜けていない
第2の注目点だが、この国会乱入は立派な大罪なのに、なぜか犯罪意識を伴うことなく、むしろ奇妙な「祝祭」気分に支配された(本欄、園田耕司特派員論考『トランプの「共和党支配」終焉の始まり』)。実際、乱入者たちは昂揚感からか写真やビデオをSNSにアップし、皮肉なことに自分たちへの捜査を助けた。
第3に、乱入したトランプ支持者が実に多様だった。白人優越主義者、愛国者、反社会主義者、宗教的保守主義者らに混じって、英雄気取りの仮装をする者や南軍旗を掲げる者など、イデオロギーではくくりきれない劇場化を印象づけた。その一方の極には、経済中心の現実的な判断からトランプを選ぶ「自由経済擁護派」がいる。たとえば筆者の住むカリフォルニアでも特に内陸部では、単に「バイデンだと職を失う」「税金が上がる」という理由でトランプに投票した人々がいる。そして他方の極には、雑多な「不満分子=妄想派」がいた。
だが大事なのは、これらの両極の間に大多数がいたことだ。その保守中間層が今回は大きく妄想の方向へと引きずられた。これを第4の観察としたい。この妄想拡大をフェイク情報だけのせいにすることには、異論もあろう。だが実際、封鎖からたった1週間で「大統領選不正」に関するSNSの情報が70%以上激減した(Washington Post, 1月16日;他)。