自由度の低い国の漫画家は、命がけで権力に立ち向かっている
2021年02月04日
パリの中学校の「表現の自由」の授業で、生徒にムハンマドの漫画を見せた教師パティさんが昨年10月16日、イスラム過激派のテロリストに殺害され、その後、フランス国葬になり、マクロン大統領から「表現の自由」を守った英雄として、レジオン・ドヌール勲章を贈られた事件から、日仏における「表現の自由の差」を考察しています。
賞を私に手渡す時、ルーアン市長はこう言いました。「この賞は、ただ単にNo-rio氏のこの漫画が素晴らしかったから差し上げるわけではないのです。『漫画家とは生き方』です。No-rio氏の生き方が素晴らしいので差し上げるのです」と。
やはりフランスでは漫画家に対するリスペクトが違います。感激しました。フランスではジャーナリストが危険な国へ取材に行って過激派に拉致され、人質になると、その日からTVニュースでは毎日『今日は○○氏が拉致されて○日目になります』とコメントし、解放されると、大統領自ら『報道の英雄』として空港まで出迎えに行きます。
日本では、フリージャーナリストが拉致から解放され帰国すると、「国に迷惑をかけた」、「自己責任だ」と総バッシングを受けます。自ら血を流して戦って「表現/報道の自由」を獲得した国民と、ただタナボタでいただいた国民との差を感じます。
このリスペクトがあるからこそ、漫画家/ジャーナリストは命のリスクを冒して、巨大で理不尽な権力へ立ち向かっていけるのです。今回は独裁者に立ち向かう漫画家の話です。
元国連事務総長にしてノーベル平和賞受賞者、「Cartooning for Peace」名誉会長のコフィ・アナン氏は言っていました。「新聞記事なら、気に入らなければ途中で読むのを止めることができる。TVニュースならチャンネルを変えることができる。しかし、一コマ漫画だと一瞬見てしまったらそれでおしまい。一瞬で全てを理解できてしまうのだ」と。それ故に一コマ漫画は強く、独裁者が一番嫌うメディアなのです。
■トルコ(報道の自由度157位)
2014年、トルコの漫画家ムサ・カルトはエルドアン・トルコ大統領(当時は首相)を猫に描き、「元首侮辱罪」で禁錮9年の刑が求刑されました。この時は幸い無罪になりましたが、エルドアンはムサに対する憎しみを忘れていませんでした。16年、軍の反エルドアンのクーデターを鎮圧すると、エルドアン大統領は一身に権力を集中させ、軍の力をそぐと同時に、彼に批判的な新聞、テレビ131社を閉鎖し、ムサを含む150人の漫画家、ジャーナリストを拘束しました。ムサも再び拘束され、禁錮380日の刑を言い渡されました。一度は収監されましたが、控訴裁判所により不当起訴と判断され、18年に釈放されました。
もう一つの漫画は、トルコの女性漫画家メネクシュの漫画ですが、掲載してくれる新聞はもはやトルコにはなく、フランスの新聞ウエスト・フランスに発表しました。牢獄の鍵を握っているのがエルドアン大統領です。
この歴史から、トルコでは軍が民主主義、政教分離の擁護者となり、イスラム教の復権を願う大衆を抑えてきました。つまり、民主主義を求める大衆を軍が抑える、一般的な軍vs大衆の関係は、トルコでは逆転しているのです。エルドアン政権の性急なイスラム化を押しとどめるため、軍が起こしたクーデターだったのです。
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