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独裁者は、なぜ、一コマ漫画を嫌うのか

自由度の低い国の漫画家は、命がけで権力に立ち向かっている

山井教雄 漫画家

 パリの中学校の「表現の自由」の授業で、生徒にムハンマドの漫画を見せた教師パティさんが昨年10月16日、イスラム過激派のテロリストに殺害され、その後、フランス国葬になり、マクロン大統領から「表現の自由」を守った英雄として、レジオン・ドヌール勲章を贈られた事件から、日仏における「表現の自由の差」を考察しています。

国際政治漫画フェスティバルでグランプリを受賞した筆者の作品拡大国際政治漫画フェスティバルでグランプリを受賞した筆者の作品
 1999年、フランスのルーアン市で開かれた国際政治漫画フェスティバルで、AERAとクーリエ・アンテルナショナルに発表した漫画でグランプリをいただきました。当時の小渕首相が日本軍によって被害を受けたアジア諸国の反発を押し切って、「日の丸を日本国旗に、君が代を国歌にする法案」を通したことに対する漫画です。

 賞を私に手渡す時、ルーアン市長はこう言いました。「この賞は、ただ単にNo-rio氏のこの漫画が素晴らしかったから差し上げるわけではないのです。『漫画家とは生き方』です。No-rio氏の生き方が素晴らしいので差し上げるのです」と。

 やはりフランスでは漫画家に対するリスペクトが違います。感激しました。フランスではジャーナリストが危険な国へ取材に行って過激派に拉致され、人質になると、その日からTVニュースでは毎日『今日は○○氏が拉致されて○日目になります』とコメントし、解放されると、大統領自ら『報道の英雄』として空港まで出迎えに行きます。

 日本では、フリージャーナリストが拉致から解放され帰国すると、「国に迷惑をかけた」、「自己責任だ」と総バッシングを受けます。自ら血を流して戦って「表現/報道の自由」を獲得した国民と、ただタナボタでいただいた国民との差を感じます。

 このリスペクトがあるからこそ、漫画家/ジャーナリストは命のリスクを冒して、巨大で理不尽な権力へ立ち向かっていけるのです。今回は独裁者に立ち向かう漫画家の話です。

 元国連事務総長にしてノーベル平和賞受賞者、「Cartooning for Peace」名誉会長のコフィ・アナン氏は言っていました。「新聞記事なら、気に入らなければ途中で読むのを止めることができる。TVニュースならチャンネルを変えることができる。しかし、一コマ漫画だと一瞬見てしまったらそれでおしまい。一瞬で全てを理解できてしまうのだ」と。それ故に一コマ漫画は強く、独裁者が一番嫌うメディアなのです。

■トルコ(報道の自由度157位)
 2014年、トルコの漫画家ムサ・カルトはエルドアン・トルコ大統領(当時は首相)を猫に描き、「元首侮辱罪」で禁錮9年の刑が求刑されました。この時は幸い無罪になりましたが、エルドアンはムサに対する憎しみを忘れていませんでした。16年、軍の反エルドアンのクーデターを鎮圧すると、エルドアン大統領は一身に権力を集中させ、軍の力をそぐと同時に、彼に批判的な新聞、テレビ131社を閉鎖し、ムサを含む150人の漫画家、ジャーナリストを拘束しました。ムサも再び拘束され、禁錮380日の刑を言い渡されました。一度は収監されましたが、控訴裁判所により不当起訴と判断され、18年に釈放されました。


筆者

山井教雄

山井教雄(やまのい・のりお) 漫画家

1947年東京生まれ。東京外語大スペイン語科卒業。91年漫画集「ブーイング」で文春漫画賞を受賞。93~96年に朝日新聞夕刊で「サミット学園」を連載。報道や表現の自由のために闘う漫画家の国際ネットワーク「Cartooning for Peace(平和のための風刺漫画)」のメンバーとしても活動している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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