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がんを患う緩和ケア医2人が語った「いのち」と「死」と「家族」

CancerX World Cancer Week 2021での2つのセッション

北原秀治 東京女子医科大学特任准教授(先端工学外科学)

 「がんと言われても動揺しない社会」の実現を目指して2018年に立ち上がった「CancerX」は、2021年、1月31日から1週間のオンラインイベント「World Cancer Week 2021」を「with Cancer:がんを知り、関わりあって、変えていく。」を基本コンセプトに開催した。昨年のCancerXサミット2020で開催した死について語るセッション「いのち〜生きるとは?~」から一年。我々の社会はコロナ禍もあり、より「いのち」について語る時間が増えたのではないだろうか? 多様なセッションの中から、昨年に引き続き緩和ケア医で自身ががん患者の大橋洋平氏に登場していただいた「いのち〜がんとともに生きる〜コラボ with ネクストリボン」と、大橋氏と同じく緩和ケア医で2019年に肺がんステージ4と診断され、現在標準治療のみを行う関本剛氏に登壇いただいた「いのちの対談〜がんになった緩和ケア医が語る『残り2年』の生き方・考え方〜」について紹介したい。

大橋洋平さんが登場したセッション「いのち」
関本剛さんが登場したセッション「いのちの対談」

足し算「いのち」、あれから1年

 昨年、「余命より足し算いのち」という考え方で会場を一体化させた大橋氏が、再び元気に登壇してくださった。もちろん抗がん剤(分子標的治療薬)は投与中である。がん患者だったら、あとどのくらい生きることができるのかを常に考える、しかし余命を考えると1日1日減るので寂しい、だから1日1日を足していこうと考えたことが「足し算いのち」の始まりであった。

大橋洋平さん=2020年9月1日、古沢孝樹撮影

 セッション開催日の2021年1月31日でがんになって665日。2度目の登壇で、セッションを企画している筆者とCancerX代表理事の半澤絵里奈とは「一期二会(いちごふたえ)になった」と語ってくれた。大橋氏は、この日を楽しみにして一年を生きてきたと楽しそうに語る。

 がんはとにかく体が苦しい、気持ちだけでも楽に生きたい。だからわがままでいこう、人に迷惑をかけていこう、そして患者風をふかせようと決めた。足し算いのちは、どんな状況でも数字が増えていく。しかし現実に戻ってみるとがんの転移は無くならない。定期検診のCTに消えてはまた他の場所に出現するを繰り返している。そうなると、なるべくCTを受けない方向に、検査期間をできるだけ伸ばしてしまおうとなりがちだ。そして叶うことなら、自分のがんが綺麗に無くなって、がんサバイバーとして生きたいと強く思う。だけどそうならない現実が分かった時、諦めて自分が今出来ること頑張ろうという気持ちが湧いてきた。

 それから、1日1日が非常にわくわくするようになった。今まで見向きもしなかったようなこと、たとえば道端に小さな草とか花が咲いていて、それに気づけるようになった自分が、負け惜しみに聞こえるかもしれないけど、いいなと思った。そうやって現状を生きている――こう語ってくれた。

脳への転移があっても仕事を続ける

 「いのちの対談」に登壇してくださった関本剛氏は、大橋氏と同じく緩和ケア医であり、2019年、43歳の時にステージ4の肺がんと診断され、すでに脳へ転移していた。自身のがん宣告が大きな衝撃を伴う出来事だったのは、大橋氏と変わらない。

在宅ホスピス「関本クリニック」院長の関本剛さん=2020年10月6日、神戸市灘区、松尾由紀撮影

 そんな現実をなんとか受け止め、標準治療を開始した関本氏が、緩和ケア医の仕事を続けることを決意したのは

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