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“スティグマ”がコロナ収束を遅らせる可能性

人権だけでなく、公衆衛生も脅かされる

粥川準二 叡啓大学准教授(社会学)

 2月のある日、広島市内を歩いていたら、あるバーが張り紙で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下「新型コロナ」)のことを「武漢ウィルス」と呼びながら、営業時間の短縮を客たちに伝えているのを見つけた(写真を撮ったが、ここでは控える)。

武漢ウィルス拡大予防の要請により、2月8日〜2月21日まで
17時〜21時まで酒類の提供は20時までとさせて頂きます

 WHO(世界保健機関)などの国連機関は、新型コロナがもたらす「スティグマ(後述)」を防止するうえで、病名に地名や民族名を入れないことを強調している。

拡大啓発ポスターやパンフレットは数多く出ているが……
 広島市役所の人権啓発課に注意してもらえないかと連絡してみたが、「うちの課ではそういう指導はできかねる」と断られた。県庁も同様であった。国の広島法務局の「みんなの人権110番」にも電話してみたが、「実際の人権侵害の申告がない限り、すぐにできることはない」とのこと。つまりどの行政機関にも、このような言動を注意する権限はない(筆者の行動は「人権警察」であろうか?)。

 広島には多くの中国人が住んでいるが、この張り紙を見ないことを祈るばかりである。

スティグマは検査や治療を遠ざける

 昨年11月、筆者は本誌で、感染症患者などを差別したり非難したりする、つまり「スティグマ化」すると、かえって感染拡大を促してしまう可能性があることを、過去の研究を引用しながら指摘した。スティグマとは、辞書的にいえば「多数者から押し付けられる否定的な評価」のこと。たとえばHIVの陽性者は、スティグマ化されればされるほど、つまり差別されたり非難されたりするほど、検査や治療に消極的になることが多くの調査によって明らかにされている。つまりスティグマ(≒差別)は、感染症の拡大を促進する。また実際に差別されたり非難されたりしなくても、そうされるだろうと感じるだけで、つまり「スティグマ予感(anticipated stigma)」を持つだけで、検査や治療をためらうようになることも判明している。

 では、新型コロナではどうなのだろうか?

 すでに多くの人が、新型コロナに罹患している可能性が高いにもかかわらず、PCR検査を受けることを拒否している。マスメディアで伝えられた事例だけでも数え切れないほどあるので例示はしない。必要があれば、各自で検索されたい。

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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 叡啓大学准教授(社会学)

1969年生まれ、愛知県出身。フリーランスのサイエンスライターや大学非常勤講師を経て、2019年4月より県立広島大学准教授、2021年4月より現職。著書『バイオ化する社会』『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(ともに青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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