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“スティグマ”がコロナ収束を遅らせる可能性

人権だけでなく、公衆衛生も脅かされる

粥川準二 叡啓大学准教授(社会学)

拡大無料PCR検査の会場を訪れる人たち=2021年2月19日、広島市中区
 彼らはなぜ、検査を拒否するのだろうか? おそらくは、「陽性」という結果を受け取って「コロナ患者」というレッテルを貼られれば、周囲から差別的な扱いを受けることを予感しているからであろう。つまり彼らは強い「スティグマ予感」を抱いている。

 前回の記事では社会心理学者ヴァレリエ・アーンショーをはじめとする英語圏の専門家たちが、HIV患者などを対象に行なった研究の結果や見解を紹介した。彼女らのグループは2020年11月、新型コロナにかかわるスティグマやスティグマ予感について、新しい研究結果を専門誌『スティグマと健康』で公表した。

スティグマ予感とステレオタイプ

 アーンショーらは2020年4月、アメリカに住む18歳以上の845人を対象にオンライン調査を実施した。彼女らは病気に関わる心理学研究で使ってきた「スケール」を使って、被験者らに、新型コロナにかかったときにスティグマ化(≒差別)される可能性がどれくらいあると思うか、医師から新型コロナの検査を求められた場合にその検査を受ける可能性がどれくらいあるか、などを尋ねた。

 たとえばスティグマ予感に関しては、研究者が被験者に対して、「あなたがコロナウイルスに感染した場合、他の人があなたをどのように扱うかを考えてください。人々があなたを次のように扱う可能性はどのくらいありますか?」と問いかけてから、「友人や家族は私に対して怒るだろう」など4つの言明について、被験者が「まずありえない」と答えたならば「1」と、「とてもありうる」ならば「5」とカウントした。

 またスティグマ予感だけではなく、「ステレオタイプ(偏見)」や「知識」、「恐れ」についても調べた。たとえばステレオタイプについては、「アジア系の人たちはコロナウイルスを持っている可能性が高い」という言明について、被験者が「強く否定する」するならば1、「強く同意する」ならば5、というように点数化した。同じく「恐れ」についても、「もし私がコロナウイルスに感染したら、とても重症になるだろう」という言明などについて同じように数えた。

拡大重症者の検査などをする医療従事者ら=京都府立医科大付属病院

 結果を分析した結果、スティグマを受けるだろうと強く予感していたり、新型コロナに対して有害なステレオタイプを持っていたりする者ほど、検査を受ける可能性が低くなる傾向があることがわかった。それとは対照的に、新型コロナについての知識が豊富な者ほど、検査を受ける可能性が高いこともわかった。また、新型コロナに対して強い恐れを抱いている者ほど、検査を受ける可能性が高いとわかった。

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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 叡啓大学准教授(社会学)

1969年生まれ、愛知県出身。フリーランスのサイエンスライターや大学非常勤講師を経て、2019年4月より県立広島大学准教授、2021年4月より現職。著書『バイオ化する社会』『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(ともに青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

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