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原発の安全神話の再生産をどう断ち切るか

チャレンジャー事故、風力発電からの教訓を今こそ生かすとき

寿楽浩太 東京電機大学教授(科学技術社会学)

拡大爆発事故を起こした東京電力福島第一原発=2012年3月3日、朝日新聞社ヘリから

ある印象的なドキュメンタリー

 東京電力福島第一原子力発電所事故(福島原発事故)に関して、筆者が忘れられないあるドキュメンタリー番組がある。事故が起きた2011年の11月にNHKが放送した、「シリーズ原発危機 安全神話 ~当事者が語る事故の深層~」がそれだ。

 次々に登場する原子力関係者が「起こることがないとされた事故がなぜ起きたのか」について証言する内容は圧巻であった。なかでも筆者に強い印象を残したのは、「安全神話」が作為的な欺瞞としてつくり出されたというよりも、常識的・良心的な配慮に淵源を持ちつつ、しかし技術と社会の相互作用の中でさながら亡霊のように肥大化したその機微だ。

 安全神話はその後、乗りこえられたのだろうか。残念ながら、性質の異なる新たな神話が再生産されていると筆者は危惧している。ではどうすればよいのか。他の技術の例も取り上げながら考えてみたい。

安全神話は意図的な欺瞞から生まれたのか

 「安全神話」という語は事故発生から10年を経た今日、「事故は決して起きない」という非科学的、非論理的な信念が安全よりも他の利害を優先する中で原子力分野において構成・共有されたこと、そしてそれが組織や人びとの振る舞いを拘束したことにより、本来取り得た、そして有効であったはずの安全上の手立てが講じられず、甘んじて事故の発生を目撃したその一連の顛末を指して用いられている。

 しかし、先に紹介した番組で当事者が語る内容は、それが「他の利害を優先」どころか、むしろ「安全を最優先」することに起源を持つことを示唆する。

拡大東京電力柏崎刈羽原子力発電所。画面上の方に市街地が見える=2021年3月4日、新潟県、朝日新聞社機から

 日本は原発に関して「ソフト面」も含めた多くを米国から導入したが、米国での原発立地のガイドラインは、万一の事故の際の避難等を容易・確実にするために「低人口地帯」を設けることを求めていた。しかし、日本の国土は隅々まで高度に開発されていて、原発は(米国の感覚からすれば明らかに)人口稠密な地域に隣接せざるを得なかった。

 番組の中で、当時の議論を知る元科学技術庁行政官が語る。「万一の場合には避難などということでは、いくら何でも原発の立地は認められなかったのではないか」と。そこで、日本では、避難等を要するような重大事故を「起こさないようにする」前提で原発立地を進めることになった、というのである。

 もちろん、それが端的に誤りであったことは今や明らかだ。「起こさないようにして」は「起きないことにして」に転化し、安全神話となった。しかし、なぜこのニュアンスの変化は生じ、定着してしまったのか。

 ここで紹介したいのが、

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筆者

寿楽浩太

寿楽浩太(じゅらく・こうた) 東京電機大学教授(科学技術社会学)

1980年生まれ、千葉県出身。東京大学大学院特任助教、東京電機大学助教、准教授を経て2020年10月より現職。原子力利用に関する諸問題、科学技術の「失敗」に関わる諸問題が主な研究対象。近著『科学技術の失敗から学ぶということ:リスクとレジリエンスの時代に向けて』(オーム社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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