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天文学・宇宙物理学を専攻する大学院生のキャリアパス

多様性ある文理共同参画社会の実現へ

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 第24期日本学術会議天文学・宇宙物理学分科会は、2018年と19年に、天文学博士号取得者に対するキャリアパス調査を実施した。その結果は、近日中に公開される予定であるが 、特に注目すべき点は以下に要約される。

  • 1999年から2017年の天文学・宇宙物理学分野の博士号取得者数は、年平均42名でほぼ一定。2009年から2017年の9年間で平均すると、博士号取得直後の進路は、国内外の博士研究員(任期付きの研究職)が6割,民間が3割弱で、研究常勤職は約5%に過ぎない
  • 大学院博士課程を学位未取得で退学する学生は、取得者の約3割程度
  • 博士号取得から5年後にまだ任期付職である割合は、博士号取得年が2000年より前では2割強だったのに対して、2000年以降では6割強にまで増加している

博士課程大学院生の意識調査結果

 科学雑誌Natureの2017年10月26日号に “A love-hurt relationship”という記事が掲載されている。これは世界中の広い分野の博士課程大学院生 5700人を対象として行ったサーベイ結果の紹介である。

 強く不安に感じている問題はなにかとの質問(複数回答可)には、ワークバランス(55%)、キャリアパス(55%)、経済的問題(50%)、研究費(49%)、研究職の数(49%)、学位の価値に対する不安(32%)、複数回博士研究員を繰り返す人数の多さ(31%)、メンタルヘルス(28%)、との回答が続く。

拡大博士号取得者数が活躍する道は…

 一方で、約7割が大学院生活には満足だと回答していることからもわかるように、これらの悩みはいずれも将来のキャリアの不安定性からきているようだ。「好きだからこそ苦しむ関係」というタイトルは、研究は好きであるにもかかわらず自分の将来に強く不安を覚える学生の気持ちを表現したものなのだ。

 将来就きたい職業の問いには、Academia(研究職)が52%、Industry(民間企業)が22%、Medical(医療関係)とGovernment(公務員)がいずれも9%、と回答されている。さらにpermanent job(任期なしの職という意味であるが、転職が当たり前の外国では、日本とは異なるニュアンスをもつのかもしれない)を得るまでに何年かかると予想するかとの問いには、6割近くが3年以内を選んでいる(約3割は4―6年、残りの1割がそれ以上を選択)。しかし、Academiaで任期のない終身研究職を得るには10年近くかかることが普通なので、現実はかなり厳しい。

 日本の天文学・宇宙物理学の博士号所得者調査結果をみても、40歳近くまで任期付きの不安定な研究職を転々としている人は決して珍しくない。これは他の基礎科学分野においても、似たような状況だと思われる(ちなみに、誤解されているような気がするが、常勤研究職についたとしても給料はさほど高くない。最近話題となった内閣広報官の年収は東大総長とほぼ同額のようだ。そもそも東大総長が安すぎる気もするが、普通の教授はその半額程度でしかない。)。

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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