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原発事故は終わっていない:東日本大震災から10年

5つの教訓を踏まえて、廃止措置や復興対策の改革案を示す

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 あの東京電力福島第一原発事故から間もなく10年となろうとする2月13日、M7.3の地震が福島沖で発生した。東京電力は即座に「原発に異常はない」と発表したが、その数日後、1号基と3号基の格納容器の水位が下がっていること、また汚染水を処理しているALPSと処理水の貯蔵タンクが最大19センチずれていることを発表した。このニュースは、福島第一原発がいまだに深刻なリスクを抱えていることを思い起こさせた。

 そうなのだ。事故はまだ終わっていない。避難されていまだに故郷に戻れない方々が4万人以上もいることも含め、福島原発事故は10年たっても継続していることを忘れてはいけない。

福島事故の教訓とは何か

 改めて、福島事故の教訓とは何だったのだろうか。筆者は次の5点をあげる。

拡大廃炉作業が進む福島第一原発2号機=2021年2月1日
 第一に、「想定外を想定する」ことである。確率は極めて低くとも「起こりうる最悪の事態」を想定することが、3.11前にはできていなかった。果たして今はできているであろうか? トリチウムを含む汚染処理水は、規制基準値以下に薄めて海洋に放出する案が有力である。確かに、通常のリスク評価で考えれば、最も合理的な選択肢に思える。しかし、最悪のケースを想定したらどうなるだろう? 汚染水を処理するALPSが故障して、本来分離するべき放射性物質を取り除くことができず、さらにモニタリング装置も故障して、規制値以上のまま気づかれずに(あるいは情報公開が遅れて)海洋放出されてしまうことはないだろうか?

 今後30年以上続くとされる海洋放出作業で、そのようなことが1回も起きないとは保証できない。そして万が一にでも起きてしまえば、福島の漁業は壊滅的な影響を受ける可能性がある。一方、地上に長期間貯蔵しておく場合も、再度の大地震に見舞われるなど最悪の事態を考えておかなければいけない。いずれにせよ、リスクはゼロにはならない。そのような現実を踏まえて、選択するときには正常な運転状況を前提にした評価だけではなく、最悪の事態を想定した評価も考慮する必要があろう。

 第二に「工学的リスク評価では不十分」ということである。工学的リスク評価は、結果(多くの場合は死者数)に確率を掛けてあらわすことが多い。事実、今回の福島原発事故でも、放射線による死者は現時点ではゼロであり、リスク工学の観点からは原発の安全性を証明した、との見方をする専門家も少なくない。

 しかし、原発事故のリスクは、そのような工学的リスク評価、死者数だけで評価できないことこそが福島原発事故の教訓である。突然、何の前触れもなく、不条理にもふるさとから離され、仕事を捨てなければいけなかった人たちの思い、放射線リスクへの不安、長く続く損害賠償の闘いなど、社会・経済・法的、そして倫理的影響まで評価する必要がある。

「透明性」と「信頼」こそ重要

 第三に、国会事故調が指摘した「規制の虜」(原発を規制する側の行政機関が規制される側の電力会社に支配される状況)に象徴される、独立したチェック機能の重要性である。この点を踏まえて、「独立した」原子力規制委員会が成立したこと、そして規制基準が新たに設定されたことは、評価できる。しかし、国会事故調の提言はそこにとどまらず、行政に対する国会の監視機能を継続的に強化すべく、原子力に関する常設の委員会設置を提言した。ところが、これは実現していない(衆議院に原子力問題調査特別委員会が設置されたが、常設ではない)。

 この国会の監視機能強化は多方面に必要と思われるが、特に原子力政策には与野党の立場(脱原発か否か)を超えた重要な課題が多く存在していることを考えれば、超党派で常設の委員会を設置し、原子力行政への監視機能を強化していくことが望まれる。

拡大敷地内に汚染水の貯蔵タンクが並ぶ福島第一原発=2020年10月16日、福島県大熊町、朝日新聞社ヘリから
 第四に、「国際的視点」の重要性である。福島原発事故の影響は、単に日本国内にとどまらない。いや、世界のどこでも原発事故が起きれば、その影響は世界に波及する。国際基準の必要性も一時議論されたが、いまだに実現していない。事故時の情報共有の面でも反省点が多かった。また、事故対応時でも、廃止措置においても、「世界の叡智」を活用する重要性は明らかである。さらに、安全性のみならず、核セキュリティや核不拡散問題も考慮すれば、原子力政策は常に国際的視点を忘れてはいけない。

 第五に、「透明性」と「信頼」の重要性だ。すべての政策決定や情報発信において「透明性」が重要なのは言うまでもない。「透明性」というのは、会議をすべて公開すれば済むものではない。意思決定過程全般にわたって記録の保存、重要情報へのアクセスの保証、わかりやすい情報発信、説得ではなく対話を中心としたリスクコミュニケーションなど、多岐にわたる努力が必要だ。そういった努力を重ねて初めて「信頼」が構築される。難しいのは、透明性に一部でも疑義があると、信頼が一挙に崩れる可能性があることだ。しかも、信頼というのは崩れるのは早いが、再構築にはとても時間がかかる。この問題も、脱原発か否かに拘わらず、政策遂行には不可欠の重要な課題であり、事故の最大の教訓でもある。

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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

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