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これはパンデミックではない——「シンデミック」とは何か?

疾患を悪化・拡大する「構造的暴力」

粥川準二 叡啓大学准教授(社会学)

 「構造的暴力」とは、ノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥングが提唱した概念で、特定の個人や集団ではなく、不公正な社会構造によってもたらされる暴力の形態のことである。そして「健康の不平等」は、貧しい者ほど不健康な状態を強いられる、といういわゆる健康格差のことだ。それを引き起こす原因のことを「健康の社会的決定要因」と呼ぶこともある。

拡大黒人差別に抗議する言葉を掲げる医療従事者=2020年6月6日、米ニューヨーク/shutterstock
 つまりシンガーらは、こうした健康格差は貧困や差別という「構造的暴力」によって起き、それが複数の疾患の相互作用を悪化させ、それを拡大する、と主張した。

 彼らによれば、最初にシンデミックとして文献に記述されたものは「薬物乱用、暴力、エイズ」であり、それらはまとめて「SAVA(substance abuse, violence, and AIDS)」と呼ばれた。このことは都市における薬物使用者らのHIVに関する研究で認識されるようになった。HIV/AIDSの感染拡大は、結核や性感染症、肝炎など都市で生じやすい疾患と密接にかかわっているだけでなく、高い失業率や貧困、ホームレス、過密な状態など都市に特徴的な条件に影響されているのである。

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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 叡啓大学准教授(社会学)

1969年生まれ、愛知県出身。フリーランスのサイエンスライターや大学非常勤講師を経て、2019年4月より県立広島大学准教授、2021年4月より現職。著書『バイオ化する社会』『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(ともに青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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