米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞社員、ナチュラリスト
朝日新聞社で、長く科学記者として取材と執筆に当たってきたほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務めた。2021年4月からイベント戦略事務局員に。ナチュラリストを名乗れるように、自然史科学や農林水産技術などへ引き続き関心を寄せていく。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
雄が雌の体表に寄生するチョウチンアンコウの仲間たち
ちょっとグロテスクな深海魚であるチョウチンアンコウの仲間は、最近の研究では世界の海に11科35属168種いるそうだ。水深が約200メートルより深い海の中を泳いで暮らし、よく知られるように頭の上から伸びたルアーの光で餌となる生き物をおびき寄せて食べるのだという(念のためだが、ここでチョウチンアンコウの仲間として扱う中に、鍋物の食材として好まれるアンコウやキアンコウなどは含まれない)。
実はこの仲間は、多くの種で雄が雌よりずっと小さい。例えば、チョウチンアンコウなら雌は体長40~60センチほどまで育つのに雄はせいぜい4センチと、どの種も雌雄の外見が大きく異なる性的二型を示す典型的な魚たちだ。そして、なかには小さな雄が大きな雌の体の表面へかみついて一時的に寄生する種や、永続的に寄生してしまう種がいる。1匹の雌に複数の雄が寄生する種もあり、何と雌の体表に8匹の雄がいた例も観察されたことがある。
こうしたチョウチンアンコウの仲間における「性的寄生」と呼ばれる現象は、1922年に初めて報告された。同種とはいえ雌雄は互いに異物なので、本来なら脊椎動物に備わった免疫系による排除のしくみが働きそうなものだが、実際にはそうならないのはなぜなのだろうか。
独マックスプランク研究所と米ワシントン大学の研究チームは昨年、この約100年前からの謎解きを進める上での注目すべき論文を米科学誌サイエンスに報告した。1匹の雌に8匹の雄が寄生したミツクリエナガチョウチンアンコウを採集して研究した経験を持つ東京大学大気海洋研究所の猿渡敏郎助教(魚類学)は、この論文について「チョウチンアンコウ研究の大きな大きな金字塔だ。雄が雌の体表に寄生した際に、なぜ拒否反応などが起きないのか。免疫系のしくみが解明された」と話す。その内容を探ってみよう。
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