山井教雄(やまのい・のりお) 漫画家
1947年東京生まれ。東京外語大スペイン語科卒業。91年漫画集「ブーイング」で文春漫画賞を受賞。93~96年に朝日新聞夕刊で「サミット学園」を連載。報道や表現の自由のために闘う漫画家の国際ネットワーク「Cartooning for Peace(平和のための風刺漫画)」のメンバーとしても活動している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
国際政治を動かす一コマ政治漫画 上
日仏両国で、30年間一コマ政治漫画(le dessin de press)を描いてきた経験から、政治漫画の国際政治における役割を考えてみます。
ムハンマド漫画問題(2005年)、シャルリーエブド事件(2015年)など、政治漫画が国際問題になるたびに、歴代のフランス大統領は漫画を擁護するスピーチを行い、国民も百万単位の大規模な街頭デモを繰り広げ、漫画家を支えてきました。
フランス革命以来、政治漫画が民主主義、自由、平等、政教分離の確立に貢献してきたことに対するフランス市民の評価の表れです。
フランスの新聞は、キオスク売りが基本で、宅配はありません。郵便で定期購読している人もいます。毎朝キオスクで新聞1面の漫画を見て新聞購入を決める人が大勢います。漫画の出来が新聞売り上げを左右するのです。キオスクの店員は、1面の漫画がよく見えるように新聞を折り、並べます。元国連事務総長のコフィ・アナンは、一コマ政治漫画が新聞で一番重要な部分だと言っています。
各新聞にそれぞれスター漫画家がいるのですが、プランチュは別格で、ルモンドの新社屋を訪れた時、社屋のファサードが全てプランチュが描く壁画で埋め尽くされているのにビックリしました。
何度も書いていますが、読売750万部、朝日500万部に比べて、ルモンドの発行部数はたったの30万部です。でも、その影響力は世界的です。世界のフランコフォン(フランス語を話す人)の知識人が読んでいるからです。図は、フランス語を国語または共通語にしている国と地域です。
プランチュと一緒に漫画展をやっていると、これらの国々の元首や政治家、大物実業家がよく見にきます。パリの漫画展で、私の漫画の前でゲラゲラ笑っているハリウッドスターのようなひげの中年紳士がいました。ヴィセンテ・ゴメス、当時のメキシコ大統領でした。
プランチュは、これらの国々を飛び回り、展覧会、シンポジウムを開き、各国の元首や政治家、大物実業家、漫画家と親交を結んでいます。彼は、1年のうち数カ月は精力的に旅行しているのですが、毎日欠かさずフランス2紙に漫画を送っています。