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「平和のための漫画」とは? 国連事務総長とプランチュがやったこと

国際政治を動かす一コマ政治漫画 下

山井教雄 漫画家

 コフィ・アナンは私が一番尊敬する事務総長で、ノーベル平和賞も受賞しています。彼は一コマ政治漫画が大好きで、政治漫画に対する発言も多いです。

2006年に漫画と平和をテーマに開かれた国連の会議で、親しく話すプランチュ氏(左)とコフィ・アナン事務総長拡大2006年に漫画と平和をテーマに開かれた国連の会議で親しく話すプランチュ氏(左)とコフィ・アナン事務総長

 コフィ・アナンは言っています。「一コマ漫画は我々の前に鏡を置く。その鏡は我々に最も醜い現実を映し出し、我々が世界に抱いている幻想を打ち砕いてくれる。漫画家はその漫画という世界語で我々に情報を伝え、教育し、建設的な対話に導いてくれる。一コマ政治漫画は、平和を構築するのに最も強力な武器なのだ」と。

漫画は世界平和に貢献する

 一コマ政治漫画が世界平和構築に貢献できると考える、プランチュと国連事務総長コフィ・アナンが巡り合いしました。

コフィ・アナン国連事務総長から届いた手紙は、Dear Mr.YamanoiのMr.がバッテンで消され、手書きでNo-rioと書き加えられていた。拡大コフィ・アナン国連事務総長から届いた手紙は、Dear Mr.YamanoiのMr.がバッテンで消され、手書きでNo-rioと書き加えられていた。
 2006年9月に、手紙の文頭のDear Mr.YamanoiのMr.がバッテンで消され、手書きでNo-rioと書き加えられた書簡が届きました。国連事務総長のコフィ・アナンからでした。秘書がタイプした手紙に、わざわざ手書きでNo-rioと書き加えてくれたのは、「あなたの漫画みてますよ」というサインだと受け止め、感激しました。国連への招聘(しょうへい)状でした。

 前年、2005年9月にデンマークの新聞が12枚のムハンマドをテーマにした漫画を掲載したところ、世界中のイスラム教徒が怒り出し、各地でデンマーク大使館が焼き打ちされ、100人ほどの死者も出ました。

 新聞政治漫画が大好きなコフィ・アナンはこの事件を憂慮し、国連で『表現の自由と各国文化の尊重。宗教的にもっと寛容になろう』をテーマに会議を開こうと、プランチュと組んで世界の12人の漫画家に招聘状を出したのです(「この手紙があれば米国入国は無審査だ」とコフィ・アナンは書いていましたが、そんなことはありませんでした。パスポートコントロールでバッチリ指紋も顔写真もとられました)。

世界共通語の漫画で壁を壊す

 この会議でプランチュは、『異なる文化、宗教の下で生きる我々の間には壁がある。この壁を世界共通語である漫画で打ち壊し、相互理解・尊重を促進し、表現の自由を守り、世界平和を構築しよう』との旨の演説をしましたが、彼の英語は極端なフランス語なまり、途中からは完全なフランス語になってしまいました。

 それに気づいた議長のコフィ・アナンは少しも慌てず、即座に完璧な仏英同時通訳を始めました。これにも驚きましたが、2人がチュトワイエ(フランス語で『俺とお前の仲』で話すこと)しているのにもビックリしました。

 私は「私はここで唯一人の仏教徒だと思いますが、仏陀(ブッダ)の漫画を描くことに何のためらいも感じません。私にとって仏陀はとても偉大な存在であり、私ごときのちっぽけな漫画家が何を描こうとも少しも傷つかないことを知っているからです。ムハンマドも真に偉大な人物ですから、漫画家が何を描こうとも全く傷つかないのではないのでしょうか」と発言しました。

イスラエルの漫画家、キシュカ描いた漫画。ブッダは大きく、筆者は極小。拡大イスラエルの漫画家、キシュカ描いた漫画。ブッダは大きく、筆者は極小。

 会場からは何の反発もありませんでした。隣にいたイスラエルの漫画家、キシュカが即座にこの漫画を描いてくれました。

 プランチュの英語は上手とは言えませんが、説得力は語学力で決まるものではありません。彼の情熱とユーモアにあふれる演説は感動的で、その都度多くのファンを生み出します。私も魅せられた一人です。

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筆者

山井教雄

山井教雄(やまのい・のりお) 漫画家

1947年東京生まれ。東京外語大スペイン語科卒業。91年漫画集「ブーイング」で文春漫画賞を受賞。93~96年に朝日新聞夕刊で「サミット学園」を連載。報道や表現の自由のために闘う漫画家の国際ネットワーク「Cartooning for Peace(平和のための風刺漫画)」のメンバーとしても活動している。

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