小島寛之(こじま・ひろゆき) 帝京大学経済学部教授
東京大学理学部数学科卒、塾講師を経て帝京大学経済学部専任講師、同助教授、2010年から現職。経済学博士。数学エッセイスト/経済学者として著書多数。『完全独習 統計学入門』(ダイヤモンド社)は12万部超のベストセラーとなっている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
紙の方がいいという研究結果と個別の「苦手」の解消に役立つデジタル
今世紀におけるIT技術や電子機器を使った学習ツールの多様化は目を見張るものがある。学童たちの学習では、pcやタブレットやスマホの利用はあたりまえのものとなった。ノートや鉛筆ばかりでなく、重たい紙の辞書さえ無くて済む。大学でも、多くの教員はパワーポイントのスライド画面を見せながら講義を行い、学生たちもファイルをダウンロードしたり、タブレットやスマホでノートをとったりしている。コロナ禍の昨年は、IT技術と電子機器のおかげで学生たちの学習停止の危機が回避できた。これは、奇跡的な幸運だと言っていい。
では、この「実現した近未来」は手放しで喜べるものなのだろうか?
ここに東京大学大学院総合文化研究科とNTTデータ経営研究所との共同研究で、面白い研究報告がある。スケジュールなどを書き留める際に使用するメディア(紙の手帳や、スマートフォンなどの電子機器)によって、被験者の間で「記憶の定着に要する時間」が異なり、「記憶の再生での成績」や「脳活動」に差が生じた、という報告である。結果をかいつまむと、記憶処理・言語処理に関係する脳領野の活動では、紙の手帳のほうが電子機器に比べて定量的に高くなる、ということだ。「記憶力や創造性につながる紙媒体の重要性」と結論している。
つまり、最新のIT技術や電子機器の学習ツールが優れているというのは早計で、使い古された紙媒体に軍配があがる、というわけなのだ。
このような指摘は、すでに、