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水田地帯にタンチョウを呼び戻す農家の挑戦、ついに成功

餌付けではなく「環境を整える」、ドキュメンタリーは映像祭最高賞

沼田博光 北海道テレビ放送報道部デスク

田園を舞う2羽。北海道では水田地帯でタンチョウの姿が見られるのは稀。
 明治時代以前には北海道に広く分布していた大型のツル・タンチョウは、明治に入って激減し、札幌周辺では100年以上も前に姿を消しました。そのタンチョウを、もう一度、マチに呼び戻そうと奮闘する農家の活動に密着した北海道テレビ放送のドキュメンタリー「たづ鳴きの里」が、第62回科学技術映像祭で内閣総理大臣賞に選ばれました。「たづ」は漢字で書くと「田鶴」。ツルを指す言葉として使われた万葉集から引用しました。

札幌近郊の稲作地帯でタンチョウのための「箱庭」を作る

第62回科学技術映像祭で内閣総理大臣賞を受ける筆者(右)=2021年4月16日、東京・北の丸公園の科学技術館
 舞台は札幌近郊で稲作が盛んな長沼町。タンチョウは明治政府による北海道開拓で湿原が減ったこと、さらには乱獲により、一時は絶滅したと思われるほど減りました。北海道の東部、釧路湿原でかろうじて生き延び、近年は保護活動が奏功して数が増えてきましたが、北海道でもほかの地域では見かけないままでした。

 長沼町の農家の有志らがタンチョウを呼ぼうとした土地は手付かずの自然が広がる湿原ではなく、洪水対策として人工的に造られた遊水地でした。そこにかつての湿地を再生し、人々の暮らしの真ん中に、タンチョウのための「箱庭」を作ろうという世界的にも例のない試みです。「来るはずがない」と、同じ町民にまで笑われた”農家の夢”がやがて現実となり、そして実に1世紀以上の空白の時を経て、つがいが抱卵するという奇跡が起きます。

100年以上ぶりの奇跡の舞台となった舞鶴(まいづる)遊水地。

 私たちは計画が始まった5年前から撮影を始め、農家の皆さんの悪戦苦闘ぶりとタンチョウの飛来、そしてヒナが育つ様子を、「タンチョウを呼び戻す会」の皆さんと一緒に一喜一憂しながら映像に記録し続けました。箱庭にはタンチョウ以外の動物たちも姿を見せるようになります。4万羽もの渡り鳥が飛来する様は圧巻でした。絶滅危惧種のチュウヒが舞い、オジロワシ、オオワシが魚を捕食する姿を札幌近郊で目の当たりにするとは思いませんでした。

「富士山をバックに飛ぶタンチョウを上空から撮影したい」

 取材のきっかけは実は海外からの問い合わせです。2015年頃にフランスの映像関係者から

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