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差別をなくす力となるか、「ソンダー(共感理解力)」という新語

調査研究の資金をクラウドファンディングで得ようと挑戦中

細田満和子 星槎大学大学院教授

アジア人への差別に反対するデモ=sutterstock.com

アジア系への止まない差別

 コロナの感染拡大が中国から始まったことから、アメリカでは従来から潜在的にあったアジア人に対する差別が表立って行われるような事件が続いている。南部のジョージア州アトランタでは、今年3月にアジア系女性6人が白人男性に銃で撃たれて死亡した。他にも、地下鉄から出る際に突然ナイフで顔を切り付けられた男性や、道を歩いている最中に突き飛ばされた女性もいる。加害者には、男性だけでなく女性も、白人だけでなく黒人らマイノリティもいる。アメリカにおけるアジア系へのハラスメントは、2020年に警察に通報されたものだけでも4000件に上っている。

 昨年からBLM(Black Lives Matter)の運動が続いているにもかかわらず、警官による黒人殺害の報道は後を絶たない。新型コロナの状況下で人々のいら立ちが、人種的マイノリティへの攻撃へと向かっているようだ。

 こうした差別と分断の状況を変えていく鍵となる言葉を最近知った。アメリカ人アーティストのジョン・コーニグが作った新語「ソンダー(Sonder)」である。コーニグは、約7年かけてこれまで言語化されてこなかった感情に言葉を与え、「言葉にならない感情の辞書(The Dictionary of Obscure Sorrows、直訳:曖昧な悲しみの辞書)」を作成した。「ソンダー」は、「誰もが人生の物語を持っていることに気付くこと」という意味で、日本語では、「共感理解力」とでも訳せるだろうか。

 筆者は「心の在り方」として「ソンダー」が現代社会を動かす重要な要素であるという仮説を立て、ソンダーという概念を明らかにする研究プロジェクトを構想した。その研究資金を学術界クラウドファンディングで得ようと挑戦しているところである。

筆者が挑戦しているクラウドファンディングの表紙
https://academist-cf.com/projects/215

見えない差別・見える差別

 米国は「自由の国」であると同時に、「人種差別がある国」でもある。筆者は2004年から8年ほどアメリカに住んだ経験があるが、最初に住んだニューヨーク市郊外のウェストチェスターで、大家さんの中国系アメリカ人夫妻から教えられたことが忘れられない。夫妻は、映画や山歩きなどに誘ってくれるフレンドリーな方々で、事あるごとにアメリカでの暮らし方について教えてくれた。そのひとつが、車の運転に関するものだった。

 一時停止が不十分だったり一方通行の道に入ってしまったりする時、 あるいは車線変更を指定の位置でしないというような軽微な交通違反の場合、「白人だったらちょっと注意されるだけでも、アジア人や黒人が運転しているとポリスは違反と見なすから、注意してね」と言われたのだ。その時は、そんなこともあるのかと思って気を付けるようにしていたが、振り返ればこれこそ人種差別なのだと思う。

ジョージ・フロイド氏の似顔絵を掲げて黒人差別に抗議する人=2020年6月10日、米国ニューヨーク、shutterstock.com

 黒人への差別ははるか昔からあり、昨年のジョージ・フロイド氏の事件でさらに注目される運動となり、BLMは社会的に見える形になっている。一方で、アジア系はアメリカ社会に順応しある程度の成功を収めていると見なされ、「モデル・マイノリティ」などと言われ、差別は見えづらくなっていた。アジア系自身も、軽微な交通違反で捕まることに気を付けつつ、レストランでキッチンやトイレに近い席に案内されても文句を言わず、差別があっても見えないふりをしてきた。それが昨年以来、道端で罵られたり、暴力を振るわれたりして、差別やハラスメントがあからさまになり、社会問題化してきた。

 こうした差別はどうして生じるのだろうか。それは

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