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注目の新教科「理数」の円滑な実施のために必要なこと

小中高生の自主研究の支援をしてきて痛感する「指導の難しさ」

尾嶋好美 筑波大学GFESTコーディネーター・サイエンスライター

世界最大の高校生のためのサイエンスフェア「ISEF」の会場。この年は17の分野に分かれ、その分野の研究者により審査された。審査時間は一回15分=2012年5月、米国ピッツバーグ

来年度から高校で「理数」という教科が始まる

 およそ10年に1度の「学習指導要領」の改定により、高等学校では来年度から「理科」「数学」等の教科に加えて「理数」が新設される。これは「理数探究基礎」と「理数探究」との2科目で構成され、「様々な事象や課題に主体的に向き合い、粘り強く考え行動し、課題の解決や新たな価値の創造に向けて積極的に挑戦しようとする態度、探究の過程を振り返って評価・改善しようとする態度及び倫理的な態度を養う」ことを目標としている。具体的には、生徒が個人もしくはグループでそれぞれの課題を設定して研究を行い発表するのが「理数探究」で、そのために必要な知識や科学的手法を身につけるのが「理数探究基礎」である。

 文科省から指定された「スーパーサイエンススクール(SSH)」で行われていた「課題研究」の教育効果が高いことから新設された。必修ではなく選択科目だが、2024年度からは大学入試にも取り入れることが求められている。

 筆者は2008年度から筑波大学において、小中高校生を対象にした科学教育プログラムの企画・運営を行い、これまで400名以上の生徒の自主研究を支援してきた。肩書にある「GFEST」は2014年度からスタートしたプログラムの名前である。この経験から、「理数」の理念の素晴らしさと同時に実施の難しさも身をもって知っており、現状のままでの教科新設に懸念を禁じ得ない。文科省には、予算の配分や高校と大学・研究所の連携を促す仕組みの整備などを強く求めたい。

SSHには予算の配分や連携機関があった

 SSHとは、国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施するとして、文科省が指定・支援している高等学校等のことである。平成14(2002)年度から始まり、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践などを通じた体験的・問題解決的な学習が行われてきた。令和2(2020)年度のSSH指定校は217校(全国の高校数は4874校)あり、一校あたり年間750万円から1200万円が配分されている。

GFEST全体プログラムでのホタテガイとハマグリの解剖実験。軟体動物のカラダの作りを学ぶ=2017年2月5日、筑波大学

 SSHに指定されるためには、それぞれの学校独自のカリキュラムを開発せねばならない。そうやって手を挙げた学校の中から文科省が採択する。学校全体で取り組む意欲と中心となる熱心な教員がいなければ採択されるのは難しい。

 採択されれば大きな支援金がくるので、大学で使うような実験機材の購入や、生徒たちの海外研修などが可能になる。また大学や研究機関等と連携している学校も多く、生徒が課題研究を実施する時に専門家のサポートも受けやすい。

 一方、「理数」は教科であるため、金銭的な支援は想定されていないだろう。そのうえ大学や研究機関からのサポートも簡単には受けられまい。SSHの場合でさえ、生徒を研究室で受け入れている研究者から「高校の先生は丸投げ状態なので負担が大きい」といった声を何度も聞いており、連携の難しさが垣間見えている。

「理科」と「理数」の高校教員の負担の違い

 高校の理科の授業ではこれまでも実験が行われてきたが、これは教科書などに載っている実験を全員が同じように行う「理科の実験」である。「理数」では生徒が個人もしくはグループで個別の課題を設定し、その課題を解決するための実験を行う。それぞれ別の実験の指導をしなければならず、手間がかかることは容易に想像できるだろう。

 しかし、教員(「理数」を指導するのは「高等学校の数学又は理科の教師」)にとってそれよりもっと負担となるのは、

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