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コロナ禍でダブルバインド化する社会

矛盾したメッセージに子どもたちはどこまで耐えられるのか

三田地真実 行動評論家/言語聴覚士

拡大福岡県内への緊急事態宣言の適用を受け、九州最大の繁華街・福岡市の天神にある警固(けご)公園では、休憩スペースを福岡市が柵で囲って「封鎖」し、立ち入りを一部制限した。「公園飲み」を規制する狙いという=2021年5月12日午後、福岡市中央区
 福岡県で緊急事態宣言の発出を受け、運動会が中止になったことで、泣き出す児童もいたという報道を見た(運動会が中止、泣きだす児童も「なぜ東京五輪はできて…」と教諭が憤り - ライブドアニュース )。記事の中で「なぜ東京五輪はできて、運動会はできないのか」と憤った教師の声が紹介されている。運動会のみならず、文化祭、修学旅行などの様々な学校行事が昨年度も中止、そして今年も、という学校も少なくないであろう。その度に子どもたちは「我慢」してきた。今回報道されなかった地域の学校においても同じような事態が起きているのではないかと思うと、こちらまで胸が痛む。

 少し前には部活動は一切中止というニュースもあったばかりだ。「せめて最後の大会には出たい」。高校3年生のバトミントン部に所属する女子生徒の談話が紹介されている。大人にとっては、今年と去年の1年にさして差はあるまい。しかし、毎年学年があがっていく子どもたちにとっては、「その1年」はかけがえのない1年なのだ。「今年我慢して、また来年ね」が気軽には言えないということである。

 子どもたちは、このコロナ禍における社会の動きを大人たちが想像する以上によく見て、言葉にはしないものの大人以上に違和感を覚えているのではないか。現状のように明らかに矛盾したメッセージが世の中に発し続けられている、この状況が長びくことによる子どもたちへの影響ということについて、大人はもっと目を向けていかなければならないと訴えたい。

コロナ関連報道とスポーツニュースとの大きすぎる落差

拡大オリックスー楽天戦で力投する田中将投手=2021年5月15日
 昨年の今頃は全国に緊急事態宣言が発出され、プロ野球も大相撲も中止されていたが、今年はいずれも開催している。「感染対策もしっかりと行った上で、社会経済も回す」という理由は、大人には通用するけれども、子どもたちにはどのように説明すれば本当に納得してくれるのだろうか。

 しかもここ数か月は、特にテレビ報道では新型コロナウイルス感染症関連のニュースを散々報じた後に、「はい、今日のスポーツです」と何事もなかったかのように、野球や相撲の映像が映し出される。ある特定のスポーツや行事などだけがいつも通りに報じられ、アナウンサーは盛り上げるように明るく楽しそうにそれを伝えている。もちろん、オリンピック・パラリンピック関連のニュースもそうだ。

 大人であっても「え? さっきまで、コロナ禍で大変って大騒ぎの報道だったのに、この明るい切り替えはなに?」と頭がこんがらがりそうである。

 「これは一種の“ダブルバインド”的な状態ではないのか」

 繰り返されるこの「コロナ関連ニュース→楽しいスポーツニュース」の刺激を浴びる中で、この言葉が浮かんできた。

 「ダブルバインド」とは、アメリカの文化人類学者で精神医学の研究者でもあるグレゴリー・ベイトソンによる理論である。普通に訳せば「二重拘束」ということになるが、「矛盾した命令(メッセージ)を受け続け、そこから逃れられない状態」のことである。より正確にご理解いただくため、彼の大著『精神の生態学』による、ダブルバインド状況に陥るのに必要な条件とその具体例を表に示した。(pp. 294-295)

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 この表をもとに、今の日本の状況を考えてみよう。登場人物は、

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筆者

三田地真実

三田地真実(みたち・まみ) 行動評論家/言語聴覚士

教員、言語聴覚士として勤務後、渡米。米国オレゴン大学教育学部博士課程修了(Ph.D.)。専門は応用行動分析学・ファシリテーション論。2016年からオンライン会議システムを使ったワークショップや授業を精力的に行っている。2011年星槎大学共生科学部教授、2013年より同大学大学院教授。著書に「保護者と先生のための応用行動分析入門ハンドブック」など。教育雑誌連載と連動した「教職いろはがるた」(https://youtu.be/_txncbvL8XE)の動画配信中!

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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