世界自然遺産の登録を勧告された沖縄・奄美にまつわる「不都合な真実」
2021年05月25日
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関の国際自然保護連合(IUCN)は5月10日、奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島を世界自然遺産に登録するよう勧告した。そして翌11日、沖縄の地元紙の琉球新報と沖縄タイムスは、沖縄が待ち望んだ朗報として登録を大々的に報じた。
沖縄・奄美は例年になく早い梅雨入りでうっとうしい天気が続いており、また連日報道されるのは憂鬱(ゆううつ)な県内のコロナ感染の状況報告ばかりであった。ところが、その日は登録を祝福するかのように、梅雨が一休みし明るい日差しが輝いた。
琉球弧の島々は、かつて大陸とつながっていた大陸島であり、200万年前から150万年前に大陸から切り離されて現在の琉球弧の島々が生まれた。
琉球弧には数多くの希少な固有種が生息するが、大陸起源の彼らの祖先は、これらの島々に閉じ込められ、そこで適応進化を遂げ現在に至ったのである。やんばる(沖縄島北部)に暮らすノグチゲラやヤンバルクイナはその代表である。
今回の沖縄・奄美の世界自然遺産登録は、数多くの希少な固有種が生息する琉球弧の生物多様性の保全の必要性が認められたということである。
奄美・琉球諸島を世界自然遺産に登録しようと日本政府が動き出したのは、少なくとも8年前の2013年1月31日までさかのぼることができる。
この日、日本政府は、ユネスコ世界自然遺産登録に向けて、奄美・琉球諸島を暫定リストに記載した。暫定リスト記載のための提出文書では、奄美・琉球は世界遺産の評価基準のうち、9の生態系および10の生物多様性の基準を満たすとしていた。
環境省は同年12月27日、対象地域を鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の沖縄本島北部(国頭村、大宜味村、東村)と西表島の4島に決定した。ユネスコに推薦書が正式提出されたのは、2017年2月1日であった。
世界遺産の評価基準は10項目あり、そのうち1~6は世界文化遺産の基準、7~10が世界自然遺産の基準である。7は自然美、8は地形・地質であり、そして9は生態系で、10は生物多様性である。
世界自然遺産の評価基準(環境省のサイトから)(7)類例を見ない自然美および美的要素をもった優れた自然現象、あるいは地域を含む。(8)生命進化の記録、地形形成において進行しつつある重要な地学的過程、あるいは重要な地学的、自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例。(9)陸上、淡水域、沿岸および海洋の生態系、動植物群集の進化や発達において、進行しつつある重要な生態学的・生物学的過程を代表する顕著な例。(10)学術上、あるいは保全上の観点から見て、顕著で普遍的な価値をもつ、絶滅のおそれがある種を含む、生物の多様性の野生状態における保全にとって、もっとも重要な自然の生息・生育地を含む。
我々がよく知る世界自然遺産の中で、7~10の四つ全てを満たす自然遺産として登録されているものとしては、米国のグランド・キャニオンがある。
また、文化遺産と自然遺産の双方で登録されているものを複合遺産と呼ぶが、代表的なものにオーストラリアのエアーズロック(現地語名ウルル)がある。地球生成の歴史を物語る地形・地質であると同時に、先住民の人たちの信仰の対象であることが、登録の理由となっている。
ところで奄美・琉球諸島は日本で5番目の世界自然遺産となるが、先行して登録された4遺産の評価基準は、屋久島(1993年)が7と9、白神山地(同)が9、知床(2005年)が9と10、小笠原(2011年)が9である。
4件のいずれにおいても9の生態系が評価基準となっていることがわかる。奄美・琉球諸島も、日本政府の計画では、知床と同様に9の生態系および10の生物多様性の二つの基準で登録するはずだった。
ところが、
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