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瀬戸内の漁師町の中学校で続くユニークな海洋学習

生徒が変わり、大人も変わった――この実績から見える日本の未来と可能性

桜井良 立命館大学政策科学部准教授

拡大写真1:アマモを回収する生徒たち=2015年6月10日、筆者提供
 日本の未来を見据えた教育のあり方とはいかなるものか。大きなヒントを与えてくれる取り組みが瀬戸内海の中学校で行われている。地元の漁師や学校教員らが協働して行う海洋学習プログラムだ。場所は岡山県備前市日生(ひなせ)。かつては日生千軒漁師町と呼ばれ、住民の大半が漁業に携わっていた。旧日生町は現在では備前市の一部になったが、漁業は今でも盛んだ。日生にある唯一の中学校(以下、日生中)が海洋学習の舞台だ。

いつしか遠い存在になってしまった海

拡大備前市の一部となった日生町は、日生諸島と山林の多い本州側地区からなる。
 かつて海は子供たちにとって身近な存在だった。学校行事として海の運動会や遠泳が毎年行われ、放課後も泳いだり釣りをしたりしていた。海が遊び場だったのだ。それがいつからか海で活動することのリスクが注目されるようになり、生徒は目の前に広がる海ではなく、学校内に設置されたプールで泳ぐようになった。海沿いには護岸が設置され、海は触れるものから眺めるだけのものになった。

 せめて地元の子供たちに海についてもう少し知ってほしい、そんな思いから日生の漁業協同組合(以下、漁協)が日生中に呼びかけて2000年代から始まったのが海洋学習プログラムだ。収穫されたカキを中学生、教員、漁師が一緒になって洗浄する活動から始まり、次第にプログラムを充実させていった。

 2013年からは総合的な学習の時間を使うようになり、入学から卒業までの3年間、地元の海での体験学習を通してそこに生きる生物について、そして漁業という営みについて学べるようにプログラムが再編成された。

 海洋基本法が2007年に制定され、「国民が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進等のために必要な措置を講ずる」ことになり、海洋学習は今では全国の学校で行われている。これらについて研究した論文や事例集なども出版されている。ただ中学生が3年間にわたり地元の漁師と密接に関わりながら海で活動する学校はあまり見たことがない。日生中は水産学校というわけではなく、どこにでもある公立中学校だが、その取り組みは特別だ。

拡大写真2:漁師の船で大海原に乗り出していく生徒たち=2015年6月10日、筆者提供

 具体的には1年生は入学とともにまず先輩の2年生から日生の漁業についてレクチャーを受け、その後、海に漂うアマモ(流れ藻)=海藻の一種でアマモ場には多くの魚が生息する=の回収活動(アマモの種をとり海に播種するために、まずは一か所に流れ藻を集め保管する作業)、カキの成長具合の観察、漁師への聞き書き学習、そして1年の終わりには収穫したカキを洗浄し試食するなどの活動が行われる。2年生も同様にこれらのプログラムが継続し、3年生はそれらの活動とともに、3年間の海洋学習をまとめ、また沖縄など他地域における海洋学習の現場を視察する。海の活動の全ては地元の漁協との連携のもとに行われ、中学生は漁師の船で大海原に乗り出していく(写真1、2)。

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筆者

桜井良

桜井良(さくらい・りょう) 立命館大学政策科学部准教授

慶應機塾大学法学部政治学科卒。ロータリー財団国際親善奨学生として米国フロリダ大学大学院に留学、博士号(Ph. D. : Interdisciplinary Ecology)取得。日本学術振興会特別研究員PD(横浜国立大学)、千葉大学非常勤講師、立命館大学政策科学部助教を経て2017年より現職。京都市環境審議会委員、慶應義塾大学訪問准教授、コーネル大学客員准教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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