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「高齢者のワクチン接種が終われば一安心」ではない

欧州のデータからわかる「人口の6割が打ち終わるまで安心できない」という現実

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

拡大長野市の新型コロナワクチン集団接種会場。日本各地で高齢者の集団接種が始まった=2021年5月29日
 欧米の多くの国が新型コロナの被害拡大からようやく切り抜けつつある。これに関して、日本では「全てワクチンのお陰」という誤解が広がっているように思う。確かにワクチンの予防効果は最新データでも95%前後と極めて高く、さらにワクチン普及と同時期に欧米は峠を越したが、だからといって、ワクチンが感染者減少の主因と思うのはデータ解析の初歩で戒める間違いだ。

 ワクチンは実際の患者数や重症化率にどの程度影響しているのか? それを正しく理解するには、感染者数とワクチン接種率の関係を年齢別に精査する必要がある。専門家会議では、そのあたりの解析もしているはずなのに、なぜか表に出て来ない。

 そこで、我流ではあるが、公開データから、誰にでも検証できる方法で調べてみた。専門ではないので細かな疵瑕はあると思うが容赦願いたい。以下、欧州疾病予防管理センター(ECDC)Our World in  Dataにまとめられたデータを使う。

 結論からいうと、英国株(B.1.1.7変異株)による欧米諸国の第3波が峠を越えた最大の理由は、各国民の高い警戒や「都市ロックダウン」などの感染対策であり、初夏を迎えた効果も大きかった。ワクチンはそれにちょっとだけ後押ししたに過ぎない。

 そもそも、ワクチンによる集団免疫は人口の6~8割が接種しないと達成できないのだ。なのに、上記のような誤解が、政府の「65歳以上の予防接種完了で一安心」という宣伝と共に幅を利かせている。オリンピックや衆院解散がらみの政局とかいう不可解な意図の元になされた世論操作に、日本社会がやすやすと乗せられているかのようだ。

イスラエルと英国の急減の最大理由は感染対策

 まず、ワクチン普及が一番早かったイスラエルの状況を見てみよう。12月に患者数が急増した同国は、年末から厳しい対策を施した。これが功を奏し、1~2月の2カ月間にかなり減少した。感染力の強い英国株でも、住民の感染対策の意識が十分に高くなれば、従来株と同じペースで感染者数が減ることは、5月の大阪の感染者数急減でも示されている。

拡大イスラエルと欧米各国(米・英・独・北欧)の感染者数の推移

 この減少は3月に一旦下げ止まりになった。しかし、その後、患者数の急減が始まり、昨夏来の最低値を割ってもなお、週4割減のペースが続いている。これがワクチン効果だろう。というのも、3月第2週の段階でワクチンによる免疫を持っていた人数は、ワクチンを受けた数(3週間前で人口の45%)と感染済み(判明分だけで人口の1割)の合計で約6割あり、集団免疫が機能し始めておかしくなかったからだ。

 英国も、12月に患者数が急増した結果、過去のロックダウンよりも厳しい対策を4カ月以上も続けた。過去の急減期と同じペースで減ったのでのもうなずける。しかし3月から段階的にロックダウンを解除した影響で、4月から横ばいとなり、最近は増加に転じている。英国のワクチン普及率は4月頭に45%に達しているから(これに感染経験者1割が「免疫組」に加わる)、5月には集団免疫の効果が出始めるはずだが、それでも増加気味なのだ。かなりワクチン接種が進んでも、対策が緩めば感染者が増えうることを示している。

他の国では「強力な対策を続けて」感染者数微減

 EU各国では早いところで3月に、遅いところでも4月20日頃に峠を越えて新規患者数が斬減に向かっている。こちらもワクチンの効果よりも、英国株に各国民が警戒を強めた成果という面が強い。

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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