桜井国俊(さくらい・くにとし) 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人
1943年生まれ。東京大学卒。工学博士。WHO、JICAなどでながらく途上国の環境問題に取り組む。20年以上にわたって、青年海外協力隊の環境隊員の育成にかかわる。2000年から沖縄暮らし。沖縄大学元学長。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
国策に異を唱え、米軍の廃棄物を告発した宮城秋乃さんを見せしめに
6月4日、筆者の携帯が鳴った。登録していない番号からの電話だった。チョウ類研究者の宮城秋乃さんの友人だと名乗った女性は、宮城さんに頼まれて至急の電話をしてきたのだという。
何事か?と耳をすますと、宮城さん宅が4日午前に家宅捜索され、パソコンなどが押収されたため、筆者が依頼していた原稿の提出が出来なくなったとの伝言を頼まれたとのことであった。
「そこまでやるのか」という思いと「やはり」という思いが相半ばした。宮城秋乃さんは、返還された米軍北部訓練場跡地の森を踏査し、米軍廃棄物の2000発以上の空包、手投げ弾、野戦食、放射性物質コバルト60を含む電子部品などを次々と発見し、それを地元の沖縄タイムス、琉球新報が繰り返し報道してきた。
なかには、1993年に米軍から返還された場所から発見されたものもあり、30年近くも放置されていたことになる。米軍は汚しっぱなし、そして日本政府はそれを放りっぱなしという「不都合な真実」が彼女の手によって次々と明らかにされてきたのだ。
米国政府と一体となって、南西諸島の軍事要塞(ようさい)化を推し進めようとしている日本政府にとって、物言う研究者の宮城秋乃さんは目障りな存在であったに違いない。菅首相が就任早々に行った日本学術会議会員の任命拒否とダブって見えてくる。
筆者は、仲間と共に「沖縄環境ネットワーク」という小さな環境NGOの活動を行っており、年に4回発行する「沖縄環境ネットワーク通信」を通じて、沖縄が直面する様々な環境問題について全国に向け発信している。
本年3月末に刊行した「通信87号」では、南西諸島の馬毛島で自衛隊基地建設に向けて環境影響評価(アセス)の作業が始まったことを受け、このアセスの方法書がいかにずさんであるかについて報じた。同号の表紙を飾ったのは絶滅が危惧されるマゲシカの写真である。
宮城さんには、やんばるの森の世界自然登録についてどう考えるか、本年6月末に発行予定の「通信88号」への寄稿をお願いしていた。奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島の世界自然遺産登録がこの7月にも本決まりになりそうだと言われているが、その登録に先立ち改めて登録の是非について問い直そうというのが「通信88号」の編集方針であった。
宮城さんは「こんなものが、森の中にたくさん捨てられたままになっている。世界自然遺産になれるとは、とうてい思えない」(2019年9月30日付東京新聞)と述べていたからだ。
また、本年5月10日に「沖縄・奄美世界遺産に」「7月正式決定へ」と報じられると、「米軍の廃棄物が大量に残っている状態での登録は不自然だ。私が発見していなかったら生態系に悪影響を与えていた。この状態で登録となると、ほかの世界自然遺産の価値も疑わしくなる」と述べている(2021年5月11日付琉球新報)。