時代を画する新薬誕生だが、期待しすぎてはいけないこれだけの理由
2021年06月10日
不治と言われてきたアルツハイマー病が治るようになるのか、と期待した人は多いだろう。が、事はそう簡単ではない。これは初期段階、つまり「まだあまり困っていない段階」に使う薬である。認知機能が明らかに衰えたアルツハイマー病患者は対象ではない。
果たしてあまり困っていないときに薬を使う気になるだろうか。しかも高価と来ている。医療経済からはどう評価すべきなのだろう。そもそも、早め早めの検査は望ましいことなのだろうか。悩みを増やすだけにならないのだろうか。
確かに、比較的若い時期に発症する家族性アルツハイマー病にとっては、待望の治療薬である。これで救われる患者が出れば、史上初の画期的な出来事になる。しかし、一般的なアルツハイマー病にとってどうなのか。むしろ、社会は新たな難題をつきつけられたのではないか。
アデュカヌマブも臨床試験の結果をめぐって判断が揺れ、第三相試験(承認申請に必要な最後の試験)の最中にバイオジェン社は開発中止をいったん決めた。ところがデータを精査すると、薬の量が多いほど、また期間が長いほどアミロイドβを減らす効果が出ていた。さらに、金銭管理や家事などの日常生活の評価でも効果が見られ、一転して承認申請することに。
FDAは2020年に優先審査を決定した。ところが、FDAが招いた外部委員による諮問委員会では「エビデンスが不十分」という意見が大勢を占めて、早期承認は頓挫。追加データを解析するため審査期限が延長され、こうして6月7日に「今後、臨床的有用性を確認する対照試験をする」という条件つきで承認されたのである。
エーザイは認知症の進行を抑制する「アリセプト」(1999年に承認)を開発した会社である。この薬は神経の働きを活発にさせることで、進行を遅らせる。つまり、対症療法としての薬である。そうではなく、アルツハイマー病の原因に働きかける「根本治療薬」を生み出したいーーこれはエーザイに限らず世界中の製薬企業と研究者の、さらに言えば患者の夢だった。
ところが、問題があった。
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