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ついに米国で承認されたアルツハイマー病「根本治療薬」

時代を画する新薬誕生だが、期待しすぎてはいけないこれだけの理由

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

拡大アデュカヌマブが米食品医薬品局(FDA)に承認されたことを伝える米バイオジェン社のホームページ
https://www.biogen.com/
 アルツハイマー病の「根本治療薬」と位置づけられる「アデュカヌマブ」が米国食品医薬品局(FDA)により条件付きで承認された。患者の脳にたまる「アミロイドβ」と呼ばれるたんぱく質を減らす効果が認められた初めての薬である。

 不治と言われてきたアルツハイマー病が治るようになるのか、と期待した人は多いだろう。が、事はそう簡単ではない。これは初期段階、つまり「まだあまり困っていない段階」に使う薬である。認知機能が明らかに衰えたアルツハイマー病患者は対象ではない。

 果たしてあまり困っていないときに薬を使う気になるだろうか。しかも高価と来ている。医療経済からはどう評価すべきなのだろう。そもそも、早め早めの検査は望ましいことなのだろうか。悩みを増やすだけにならないのだろうか。

 確かに、比較的若い時期に発症する家族性アルツハイマー病にとっては、待望の治療薬である。これで救われる患者が出れば、史上初の画期的な出来事になる。しかし、一般的なアルツハイマー病にとってどうなのか。むしろ、社会は新たな難題をつきつけられたのではないか。

米バイオジェン社とエーザイが共同開発

拡大米バイオジェンとエーザイの共同開発の内容=米バイオジェン社のホームページから
 この薬はスイス・チューリヒ大学の研究者が見つけたアミロイドβを標的とするヒトモノクローナル抗体からできており、米バイオジェン社が2007年に共同開発権を買い取り、2017年から日本のエーザイと共同で全世界的に開発を進めてきた。アルツハイマー病の原因をアミロイドβと見る研究者は多く、これを抗体、つまり免疫反応を利用して減らそうという薬剤開発には世界中の企業が取り組んできた。ところが、臨床試験で十分な効果が認められずに開発を中止する例が相次いだ。
拡大アルツハイマー治療薬「アデュカヌマブ」=米バイオジェン社提供

 アデュカヌマブも臨床試験の結果をめぐって判断が揺れ、第三相試験(承認申請に必要な最後の試験)の最中にバイオジェン社は開発中止をいったん決めた。ところがデータを精査すると、薬の量が多いほど、また期間が長いほどアミロイドβを減らす効果が出ていた。さらに、金銭管理や家事などの日常生活の評価でも効果が見られ、一転して承認申請することに。

 FDAは2020年に優先審査を決定した。ところが、FDAが招いた外部委員による諮問委員会では「エビデンスが不十分」という意見が大勢を占めて、早期承認は頓挫。追加データを解析するため審査期限が延長され、こうして6月7日に「今後、臨床的有用性を確認する対照試験をする」という条件つきで承認されたのである。


筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)、編集委員を経て科学コーディネーターに。2021年9月に退社。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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