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アルツハイマー病新薬の米国FDA承認に諮問委員が抗議の辞任

安全性と有効性の証拠がいらなかった半世紀前に戻ったのかと批判

高橋真理子 朝日新聞科学コーディネーター

 米国でアルツハイマー病の新薬が条件つきで承認されたことに対し、承認機関である米国食品医薬品局(FDA)の「末梢・中枢神経系薬物諮問委員会」メンバー11人のうち3人が抗議の辞任をした。科学的エビデンス(証拠)が不十分だという委員会の意見が無視されたからだという。そのうちの一人、ハーバード大医科大学院のアーロン・ケッセルハイム教授は「有効性を示さなくても薬を売ることができた半世紀前に戻ったようだ」とFDAを厳しく批判する論考をニューヨークタイムズ(2021年6月15日)に寄せた。

拡大米国で承認されたアデュカヌマブ=米バイオジェン社提供

 この薬はアルツハイマー病患者の脳にたまるアミロイドβと呼ばれるたんぱく質を減らすものとして米バイオジェンと日本のエーザイが共同開発したアデュカヌマブ。深刻な病気に対して効果が不確実でも早めに使えるようにする「迅速承認制度」にのり、「臨床的有用性を確認するために新たな臨床試験をする」という条件つきで承認された。

 しかし、FDA外部の専門家が集まる末梢・中枢神経系薬物諮問委員会では、昨年11月の会合でほとんどの専門家がエビデンスは不十分とし承認に否定的な見解を示していた。私たちが新型コロナに関して日常的に目にしている「専門家の意見を無視した判断を政府当局がする」というシーンと同じ構図が今回の承認に際してあったことになる。

市販前の審査の重要性を知らしめたサリドマイド事件

 安全性と有効性を示す証拠がなければ薬を承認してはいけないと世界の人々に知らしめたのがサリドマイド事件だ。ドイツで1957年に発売されたこの薬は、睡眠薬や胃腸薬として世界40カ国以上で販売された。日本でも「海外で使用されている有名医薬品」として簡易な審査で承認され、街の薬局で売られた。

拡大来日し、サリドマイド裁判で原告側証人として証言するために東京地裁に入るレンツ博士=1971年11月2日

 これを服用した母親から奇形児が多く産まれていることに最初に気づいたのは西ドイツ・ハンブルク大学の小児科医師のレンツ博士だった。1961年11月に調査結果を学会で発表し、警告すると、西ドイツはすぐにサリドマイドを市場から回収することを決定。欧州各国も販売停止・回収をした。ところが日本は「レンツ警告には科学的根拠がない」として放置、翌年夏に日本での症例が発表されてようやく販売停止・回収に踏み切った。欧州に遅れること10カ月、その間に被害者は増えた。

 被害者数はドイツが群を抜いて多く約3000人、日本は約300人(死産を含めると1000人を超す)、一方米国は10人程度と極めて少なかった。これは、

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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