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ようやく動き出した博士後期課程改革

3度目の大学院改革、これで失敗したら後がない

永野博 科学技術振興機構国際部研究主幹、日本工学アカデミー顧問

拡大shutterstock.com

博士後期課程の授業料を無料にせよ

 博士後期課程(通常は大学院5年間のうちの後半3年間)在学者への支援が科学技術政策において珍しく話題となっている。在学者は現在約75000人おり、その中でこれまで年間180万円~240万円の生活費支援を受けていたのは約10%であったものを、今年度は20%に、さらに第6期科学技術・イノベーション基本計画の終了する5年後には30%にしようというものである。

拡大萩生田光一文部科学大臣(中央)と小林喜光会長(左)と筆者(右)=2021年5月25日

 日本工学アカデミー(EAJ)ではこれまで累次の緊急提言(2017年、2019年)において博士後期課程の改革の必要性を指摘してきたので、この方針を評価するとともに、さらに行うべきこととして「後期課程の授業料徴収をやめる」など「2021年緊急提言」をとりまとめ、小林喜光会長が井上信治内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)、萩生田光一文部科学大臣らを訪問し直接説明した。両大臣とも提言を歓迎されたが、授業料の問題については、課題であるとの認識は示されたが、直ぐやろうというところまではいかなかった。学部生の学費無料が叫ばれるのなら、博士後期課程についても当然議論すべきであろう。その他の博士後期課程についての改革も待ったなしで進めるべきだと考える。

 大学院改革が政策課題になったのは3度目である。今回こそ成功させなければ、日本は後がないと覚悟すべきだろう。

日本工学アカデミー2021年緊急提言の内容

 EAJは、産学官の有志が1987年に「日本でも政府から独立した組織が社会課題について調査・提言する必要がある」と考え、創設した公益社団法人である。筆者はかつて専務理事を務め、いまは顧問に就いている。

 EAJの2021年緊急提言の概要は次のとおりである。

① 博士後期課程大学院生を学生ではなく研究者として位置づける。
・授業料の徴収をやめる。フランス、ドイツ、オランダなどの欧州大陸諸国では博士課程在学者に対する授業料はないばかりか、いわば就職したような扱いになっている。米国でも自然科学系の有力大学では、授業料があるとされていても実際には、大学や教員が手当てし、学生が授業料を支払うことは稀である。
・生活費としての支援金額は現在、最も高い日本学術振興会の特別研究員(大学院博士課程在学者)事業で年間240万円となっている。授業料の存在、修士課程卒業者の年収、この人たちが研究活動で世界の中心の一つとなるという政策目標を考えると、この倍額程度の支援を実現する必要がある。

② 博士後期課程の在学者全員を支援対象とする。
・修士課程からの進学者は全員を支援する。当然、支援に値する学生のみしか入学させないことが前提である。社会人学生でも他の収入が限られている場合は支援する。

③ 財源確保の考え方
・大学ファンドを、返済を前提とする財政投融資の資金により設けることは望ましくなく、政府予算からの出資による事業としていくべきである。その前提で政府は、できるだけ早期に大学ファンドを10兆円規模にする予算措置を講ずべきである。

④ 博士後期課程終了後のキャリアパスの明確化
・博士後期課程終了後のキャリアパスがはっきりしなければ、学生はお金があっても博士後期課程への進学には躊躇する。

博士後期課程に来る学生が激減した当然の理由

 日本は世界の研究のハブの一つになることを政策目標としているが、現実には、世界の科学における日本の相対的地位は低下の一途である。改善方策は多く語られるが、それには先ず、

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筆者

永野博

永野博(ながの・ひろし) 科学技術振興機構国際部研究主幹、日本工学アカデミー顧問

慶應義塾大学で工学部と法学部を卒業。科学技術庁に入り、ミュンヘン大学へ留学、その後、科学技術政策研究所長、科学技術振興機構理事、政策研究大学院大学教授。OECDグローバルサイエンスフォーラム議長を6年間、務めた。現在、日本工学アカデミー顧問など。著書:『世界が競う次世代リーダーの養成』、『ドイツに学ぶ科学技術政策』

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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