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親の浴びた放射線は子どもに影響するのか?

広島・長崎、チェルノブイリの最新研究から考える

粥川準二 叡啓大学准教授(社会学)

 4月17日、『朝日新聞デジタル』は「両親の被曝の子への影響『一部で関係性』 放影研」という見出しで、原爆による放射線の影響を研究している日米合同の研究機関・放射線影響研究所(放影研)の研究結果を報じた。

拡大shutterstock.com

 SNSでこの記事は反響をよんだ。これまで放影研は、被曝2世は原爆の放射線の影響を受けていないと発表し続けてきたが、その定説が覆されたのか? と注目を集めたのだ。

 筆者もこの記事の見出しに驚いたので、自分なりに調べてみた。結論を先に述べると、この記事は間違ってはいない。しかし、見出しはきわめてミスリーディングである。研究結果は、これまでの定説を覆すものではなかったからだ。

福島原発事故を受けて再分析

 この研究は、放影研の山田美智子・臨床研究部放射線科長らが実施し、専門誌『アメリカ疫学雑誌』オンライン版に4月13日付で掲載された。読んでみると、今回の結果を理解するために重要な「文脈」がよくわかる。

拡大インタビューに答える放影研の山田美智子・臨床研究部放射線科長

 放影研の前身は、「ABCC」として知られる「原爆傷害調査委員会」である。ABCCは1948年から1954年にかけて、さまざまなレベルの放射線を浴びた原爆被爆者たちの妊娠の経過を調査した。放射線が次世代に影響をもたらすことが動物実験で示されていたからだ。結果は1956年に発表され、1981年と1990年に追加解析が行われた。

 新生児の先天性形成異常(手足の変形など)や死産、誕生後早期の死亡はまとめて「妊娠転帰における問題=UPO」とも呼ばれる。調査結果は、UPOの頻度と両親が浴びた放射線量との間に「正の傾向」があることを示したが、統計学的に有意ではなかった。つまり偶然の可能性を排除できない程度のものであった。

 ABCCやその後継機関・放影研はその後も、被爆者の子どもたちについて、男女比や染色体異常、血液中のタンパク質、特定の遺伝子の変異、死亡率、成人になってからの疾患の罹患率などを調査してきたが、現在までのところ、親の浴びた放射線量との関係性は認められていないという。

 しかし、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故後、親の放射線被曝の遺伝的影響が心配されるようになってきたため、山田らはデータを再分析した。

偶然の可能性を排除できない

 山田らは今回の再分析で、①先天性形成異常、②7日間以内の周産期死亡(死産と出生から7日以内の新生児の死亡)、③14日以内の周産期死亡(死産と14日以内の新生児の死亡)を指標とした。また分析対象として、7万1603人を選んだ。そしてこの3つの指標と親の被爆線量3種類(母親線量、父親線量、両親の合計の線量)の関係性を分析した(3指標×3種類で合計9パターンの関係性を分析した)。

 新生児に影響する要因として知られる、親の年齢や血族結婚などを組み込んでデータを調整した結果、母親線量、父親線量、合計線量が増加すると、3指標それぞれが増加する傾向が見られた。しかし、

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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 叡啓大学准教授(社会学)

1969年生まれ、愛知県出身。フリーランスのサイエンスライターや大学非常勤講師を経て、2019年4月より県立広島大学准教授、2021年4月より現職。著書『バイオ化する社会』『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(ともに青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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