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続・親の浴びた放射線は子どもに影響するのか

広島・長崎、チェルノブイリの最新研究から考える

粥川準二 叡啓大学准教授(社会学)

 前回、放射線影響研究所(放影研)の再解析では、広島・長崎の被爆者らの子どもには放射線の影響が確認されなかった、と書いた。今回は、国際研究チームがチェルノブイリ原発事故の被爆2世らをゲノムレベルで調査した研究を紹介する。

チェルノブイリの被爆者たちのゲノムは?

 今年5月14日、アメリカ国立がん研究所のメレディス・イェーガーらが率いる国際研究チームが、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故で被曝した親から生まれた子どもたちの遺伝子を調べてみたところ、通常の人たちと変わらなかった、と科学誌『サイエンス』で発表した。『朝日新聞』はこれを「子への影響「最小限」 チェルノブイリ事故、親が被曝」と報じた。『論座』でも朝日新聞の高橋真理子科学コーディネーターによる解説が掲載された。

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 過去には、子どもたちの「ミニサテライト」に過剰な変化が見つかったという報告もあった。ミニサテライトとは、DNAのうちタンパク質を暗号化していない部分における変異の繰り返しのことだ。ただし、1996年のこの研究に対する評価は一致していない、と今回の研究に参加した中村典・放影研顧問は指摘する。

 イェーガーらのチームは、親が事故後に妊娠し、1987年から2002年の間に生まれた子どもたち130人と、その両親105組のゲノムを解読した。対象になったのは、事故当時、少なくとも片方の親がチェルノブイリ原発から45マイル(約72キロ)以内にいたか、もしくは「リクビダートル」と呼ばれる原発作業員として働いていた家族である。

 チームは親の被曝線量と、子どもたちの遺伝子に生じた変異との関係性を分析した。親の被曝線量は、父親では平均365ミリグレイ(≒365ミリシーベルト)、母親では19ミリグレイ(≒19ミリシーベルト)だった。親のなかには、急性放射線症候群を発症した者もいた。子どものなかには、父親が被曝した子ども、母親が被曝した子ども、両親ともに被曝した子ども、どちらも被曝していない子どもがいた。

次世代への健康影響は最小限

 チームが分析の対象にしたのは、精子や卵子、受精卵がつくられるときに生じる「デ・ノボ・ミューテーション(DNM)」と呼ばれる変異である。DNMは通常、1世代で1人当たり50〜100個生じると推定されている。また、父親の年齢が上がれば上がるほど、DNMが増えることもすでに知られている。「僕らが学生の頃からいわれていたことです」と中村は言う。

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 もし親が浴びた放射線が子どもに影響するならば、より高い放射線を浴びた両親から生まれた子どもに、より多くの変異が見つかるはずである。しかしそのような関係性は見つからなかった。一方、父親の年齢がDNMの増加に強く影響することも、あらためて確認された。チームは、「両親の被曝によってDNMの発生率が上昇するとは思われない」として、「次世代の健康への影響は最小限」と結論づけた。

福島の女子高生たちは心配しなくていい

 前回紹介した山田らの論文と今回紹介したイェーガーらの論文には共通点がある。どちらも、2011年に起きた東京電力福島第一発電所事故によって放射線を浴びた人たちの懸念に答えようとしていることだ。

「福島の女子高生たちは心配しなくていい、ということです」と中村は言う。

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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) 叡啓大学准教授(社会学)

1969年生まれ、愛知県出身。フリーランスのサイエンスライターや大学非常勤講師を経て、2019年4月より県立広島大学准教授、2021年4月より現職。著書『バイオ化する社会』『ゲノム編集と細胞政治の誕生』(ともに青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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