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北東アジアの核のドミノは防げるか

日韓共同ワークショップに参加して

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

① 世代交代と平和教育の欠如
 この問題で、衝撃的だったのは、柴崎秀子長岡技術科学大学名誉教授が発表した、科学技術系の学生への意識・知識・体験調査の結果であった。意識面での調査結果は下記の通り。

  • 広島・長崎への原爆投下は正しい決定であった」賛成は日本人学生39%、米国人学生21%、留学生21%
  • 「核兵器は必要である」賛成は日本30%、米国17%、留学生25%
  • 「将来核兵器廃絶は可能だ」賛成は日本19%、米国66%、留学生39%
  • 「核兵器は戦争抑止に有効だ」賛成は日本57%、米国41%、留学生48%

 さらに、知識・体験面での結果も衝撃的である。

  • 「原爆投下後の写真やビデオを見た」日本83.6%、米国93.3%、非アジア留学生95.6%、
  • 「被爆者の体験を聞いた」日本23.8%、米国76.1%、非アジア留学生55.9%
  • 「世界の核兵器の数」正解は日本39.2%、米国51.6%、非アジア留学生55.9%
  • 「原爆死者数」正解は日本56.3%、米国68.1%、非アジア留学生72.1%

 これらの調査結果を見る限り、科学者・技術者を目指す日本人学生の将来が心配になってくるが、これは学生の責任というよりも、教育の問題ではないか、と柴崎教授は指摘する。日本の歴史教育には、現代史が極めて少ない時間しか割けられておらず、しかも核兵器問題に関する教育は極めて少ない。

拡大北東アジアにおける「核の連鎖」の危機をどうすれば防げるか

 被爆者から直接体験を聞く機会も減少しており、いずれ被爆者や戦争体験者が存在しない時代がやってくる。また、平和教育も学習指導要領からは外れており、任意の教育プログラムとなっている。今後このような状況が続けば、「唯一の戦争被爆国」で育った若者たちの意識が大きく変わる恐れがある。

② 法的制約の緩和・崩壊
 次に、法的制約についてもリスク要因がある。国内法でいえば、特に憲法9条と核兵器との関係が指摘された。1978年の福田首相、最近では2016年の安倍首相が、「憲法9条は防衛目的に核兵器保有を禁じていない」という趣旨の発言を行っている。しかし、過去の政府答弁では「相手国を攻撃するための兵器であるから、核兵器は自衛の範囲を超えている」という理由で、核兵器は憲法上持てない、とされていた。このように、憲法も解釈によって制約条件が取れていくことが懸念される。非核三原則がいまだに法制化されていない点も懸念の一つである。

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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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