「彼ら」を通じて「われわれ」を理解する
2021年07月23日
「質問されたことにはちゃんと答えろ!」。気がつくとテレビに向かって叫んでいる日々が続く。世の中には正解が存在しない問題が山ほどある。というか、そちらのほうが多い。だからといって、質問を無視したり、意味不明の受け答えでごまかして良いわけではない。求められているのは誠実さと論理性である。答えのない難問にいかに立ち向かっていくかを、自分の言葉で語ることができない人間は、人の上には立てないし、立つべきではない。一体、どのような教育を受けてきたのだろう。
これが日本の教育制度の根本的欠陥を示している「のも事実ではないでしょうか」。「そういうなかで私は」教育者の端くれとして、そのような姿勢は看過してはならない「と思っています」。「いずれにせよ」、今回はそんな不愉快な政情をしばし忘れて、決して正解のない問題を高校生と楽しみながら考えてみた経験を紹介したい「と思います」。
高知県の追手前高校は、名前から想像できるように高知城のすぐ近くにあり、浜口雄幸、寺田寅彦、やなせたかしを輩出した公立高校である。そこで、6月26日に、1、2年生を対象としたオンライン講義を行った。
講義タイトルは「地球外に生命は存在するのか」。過去4半世紀に渡る太陽系外惑星の研究を通じて、太陽と似た恒星の約1割がハビタブル惑星(居住可能惑星。仮に大量の水が存在したとすれば、それが液体である温度範囲にある岩石惑星をさす。ただし、実際に居住可能かどうかはわからないので、あまり適切な用語ではない)を持つことが、すでに観測的に明らかになっている。
太陽と似た恒星が約100億個あるこの天の川銀河内には、ハビタブル惑星が10億個程度存在するはずだ。さらに、現在観測可能な宇宙の中には銀河が約1000億個存在するので、そこまで広げると、ハビタブル惑星の数は10億×1000億=1垓(がい)個。これらがどこまで地球と似た環境をもつのかはわからない。そもそも宇宙で生命が存在するための条件は不明だ。しかしながら、この膨大な数を前にして、我々程度の知的生命を宿す惑星が地球以外にはないと考えるのはあまりに不自然だ。
というわけで、私は、宇宙には地球以外に知的文明が(複数)存在すると信じる派である。そこで地球外文明が存在することを前提とした課題を事前に配布しておき、講義では系外惑星研究の進展と宇宙生命探査の未来を紹介した後に、班ごとに発表してもらい、一緒に議論を行った。
前置きはここまでとして、当日のやり取りと及び後日送られてきたレポートを元にして、正解のない質問に対する私の回答(≠解答)を紹介しておく。「仮定の質問には答えられない」などと逃げることなく、真正面から、できる限り誠実に対応したつもりである
宇宙人は言語をもっているのでしょうか
文明を構築できるほどの知的生命体を宇宙人と呼ぶならば、確実に言語をもっているでしょう。地球史から明らかなように、人間が一人でできることは限られています。多くの人々が議論し役割分担することなく文明は生まれません。そのような集合知の構築には、言語は不可欠です。
劉慈欣のSF小説『三体』に登場する三体人は、
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