制度を廃止するだけで根源的な課題が解決するのか?
2021年07月20日
「文部科学省が教員免許更新制を廃止する方針を固めた」(注:まだ決定ではない)というニュースは教育界を瞬く間に駆けめぐった。
今回の動きのきっかけとなったのは「うっかり失効する者が多い」ということであった。この論理の妥当性については前回の論座で論じた通りである。加えて、「講習自体が受講生に非常に不評である」(冒頭で引用した記事では「講習内容が“役に立っている”と考える教員が3人に1人にとどまるなど、実効性が疑問視される結果が出ていた」)ことも廃止へという流れが生まれる大きな原動力になっているだろう。それは、記事についているコメントが講習に対する不満や廃止を喜ぶ声であふれていることからも見てとれる。
しかし、廃止によってここにある本質的な課題が解決できるのか? つまり講習内容が「現場で役に立たない」「現場教員のニーズに合っていない」などという、免許更新講習実施10年余であぶり出されてきた課題である。筆者がずっと問うているのは、まさにその「講習の根幹」部分なのである。先の記事のコメントでは「職場では十人中十人が役に立たず、不要であると言っているのが事実」と評しているものさえあった。そのように評価されてきた講習の内容への省察が分析的になされることなく、「制度廃止で終わり」でよいのか、ということである。
この問題に関連して、萩生田文部科学大臣は7月13日に行われた会見で「制度の廃止を固めたという事実はない」「研修の必要性は全く変わっていない」と明言されていることから、まだ議論の余地はありそうだ。
そこで、これまでの講習でわかってきた問題点を今後の改善につなげるにはどうしたらよいのか、本稿ではそこを論じていきたい。
「教員免許状更新講習」は誰でも好き勝手に開講できるものではない。文科省のHPには「免許状更新講習の認定申請等要領」というページがあり、こちらを見れば講習を開講するためにどういう手続きが必要かの全容がわかる。
例えば、「本講習の開設者となれる者」は、下にある通りだ(以下四角囲みは、免許状更新講習の認定申請等要領(令和3年度開設用)からの引用)。
必要書類を整えた上で文科省に「申請し」、そして「認定される」必要があるのである。ちなみに、令和3年度6月現在で認定されている大学等の一覧も公開されている。
さらに講習の「講師」となれる者も規定されている。
これを見ても明らかなとおり、講習を実施できる講師の第一候補は「教職課程」を担当している大学教員である。教職課程とは、つまり教員養成を行う課程である。主としてそういう講師による講習が「約2/3の現場教員から役に立たない」と評価されているという事実をどう受け止めればよいのだろうか。
一方で、こうした厳しい規定があるために、優れた教育実践を積み重ねている現職教員の方が現場に役立つ知見を伝えるという企画を立てても、規定の条件に合わず、「その先生には講師になってもらえない」と言われてしまう。これは実際に私が経験したことで、「あんな素晴らしい先生に講師になってもらえないなんて……」と唖然としたことを今も思い出す。そのときは妥協策として、その先生には講師ではなくゲストスピーカーという立場で登壇いただく方法をとった。
冒頭の記事を受けて、名古屋大学准教授の内田良氏も「講習の講師役をやらされる大学教員も、できる限り引き受けたくないと考える人が多い」とコメントを寄せている。それはなぜなのかも前回論座で分析した。講習を担当する講師個人にとっても、時間が取られること、加えて、かなり厳しい評価を受ける可能性があることから、できれば避けたいとなるのは自然な流れであろう。
講師は
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