コロナ禍でも5万人以上が参加、その魅力と意義を考える
2021年07月26日
世界中の都市で一般市民が一斉に近所の生き物観察をする。そんなイベントが毎年行われている。「シティ・ネイチャー・チャレンジ(City Nature Challenge、以下、CNC)」だ。具体的には4月下旬から5月初旬の決められた「観察期間」に関心のある市民が近所の自然公園や自宅の庭などで生き物(野鳥、植物、昆虫など)を携帯で写真におさめ、またはその鳴き声を録音し、専用アプリを通して登録・提出する。それを専門家や自然愛好家が同定(生物の分類上の所属や種名を決定)するのが、引き続く「同定期間」だ。何種類同定されたかの結果はすぐに発表され、楽しい競争になる。
この取り組みを始めたのは米国ロサンゼルス自然史博物館とカリフォルニア科学アカデミー(サンフランシスコにある自然史博物館)である。最初に行われた2016年はサンフランシスコとロサンゼルスで合計1000人余が参加し、1600ほどの種が特定された。翌2017年は全米の16都市で4000人以上が参加し8600種が同定された。CNCは米国以外にも知られるようになり、2018年には世界中で開催されることになった。その年は東京を含む世界68都市で1万7000人以上が参加し、1万8000種が特定された。2019年には世界159都市で3万5000人以上が参加し、3万1000種が同定された。参加者も参加都市も、どんどん増えてきたのである。
そして2020年と2021年。コロナ禍で外出自粛が世界中で呼びかけられる中で、野外で生き物観察をする人が減ることも懸念されたが、ふたを開けてみると参加者数はこれまで以上だった。2020年には244都市、4万1000人が参加し、3万2000種が同定された。今年は5大陸44か国419都市から5万3000人が参加し、約4万5000種が同定された。日本では東京で135人が参加し880種が観察された。
CNCのように一般市民が研究者との連携のもとで調査活動に参加し、データを集める活動は市民科学(Citizen Science)と呼ばれる。今や市民科学プロジェクトは世界中で行われ、関連する学会も創設されている。市民科学という言葉は社会的にも学術的にも広く認知されるようになった。
筆者は、国内外の市民科学プロジェクトの動向を調べてきており、2018年から東京で行われてきたCNCについては、運営する一般社団法人「生物多様性アカデミー」とともに参加者の意識調査などをしてきた。さらに、2021年は一般の参加者とともにCNC-Tokyoに参加した。その体験も踏まえながら、市民科学がもつ可能性について考えてみたい。
研究を職業としない一般の人々による生き物観察という意味において、市民科学の取り組みや考え方自体は日本では決して新しいものではない。例えば古くは1200年以上前の平安時代から、日本では宮廷の日記などにおいて桜の開花時期が記録されており、これらは気候変動が生物に与える影響を推察するうえで貴重な学術的データとなっている。
モニタリングサイト1000里地調査(公益財団法人 日本自然保護協会主催)やお庭の生きもの調査(特定非営利活動法人 生態教育センター主催)など、日本で行われてきた市民参加型の生き物観察は多い。
また、多くの自然保護運動は身近な自然の価値を重視する地域住民が声を上げることで始まった。1960~70年代の住宅地や工業団地の開発に対する自然保護運動、80年代のリゾート開発反対運動など、そこに住む、またその自然を日々観察してきた住民・市民が開発反対の声をあげ、結果的に貴重な自然が守られてきた。これらは身近な自然と関わりを持つ、その地域に住む市民こそ、自然保護の番人であることを物語っている。
それにしても米国の二つの都市で始まった取り組みが数年後には世界中で何万人と参加するイベントになったのは驚くべきことだ。そんなCNCの魅力はどこにあるのだろうか。
参加者のアンケート内容や活動記録からは、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください