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「竜とそばかすの姫」と「映画 太陽の子」

この夏に映画館で見たい、平和を考える感動2大作

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 76年目の原爆の日を今年も迎えた。今年はいつもと異なる状況での原爆の日だった。パンデミック下のオリンピック開催で、毎日増加する感染者数と熱戦を繰り広げるスポーツ観戦という、我ながら異常な心理状態に置かれた毎日であった。しかし、本来「平和の祭典」であるオリンピック中に、被爆国からの平和のメッセージが全く発信されなかったことは、極めて残念であった。オリンピックの開催意義を改めて考える機会となった。そんな中、「平和」を考えるのにふさわしい、この夏に注目される「竜とそばかすの姫」と「映画 太陽の子」という2本の映画を紹介したい。ともに、楽しみ、考えさせられる感動大作であった。

「竜とそばかすの姫」 弱者に寄り添う優しさ

 細田守監督の最新作「竜とそばかすの姫」は、予告編やポスターから「美女と野獣」のインターネット版、と思われる方も多かったと思う。確かに、似たような設定や場面も出てくるし、「見かけではなく中身を理解すること」の大切さを訴えている点では、共通する面も多い。しかし、「美女と野獣」をはじめとして、ディズニーの物語はやはり「王子や姫」といった「統治する側」に期待する「正義」がテーマとなっているものが多い。悪を懲らしめる「勧善懲悪」のストーリーにのった強いヒーローやヒロインが主人公なのだ。

「竜とそばかすの姫」全国公開中 ©2021 スタジオ地図
 これに対し、細田監督の作品に出てくる主人公は、いずれも「ふつうの市民」、もっといえばその中でも「弱者や少数派(マイノリティ)」を扱っているテーマが多い。本作と似たような設定の「サマーウォーズ」をはじめ、「バケモノの子」や「おおかみこどもの雨と雪」の主人公は、どちらかといえば「オタク」と呼ばれている「変な子」か、「人間社会からはみ出た少数派(マイノリティ)」を主人公としている。

 今回のタイトルに「姫」という呼称が使われているために、多少の誤解を生んでいるかもしれないが、今回もやはり「田舎でインターネット空間に閉じこもる平凡な女子高校生(すず)」が主人公であり、「竜」も権力とは正反対の人物を象徴する存在なのだ。したがって「美女と野獣」に出てくるヒーローやヒロインを期待していると多少裏切られるかもしれない。

「竜とそばかすの姫」全国公開中 ©2021 スタジオ地図
 物語は、「U」という仮想空間と現実社会との往来で描かれる。仮想空間で演じる「姫」(Belle)の人気と存在感は現実とは大きなギャップがあるため、主人公のすずは戸惑いつつも、「姫」の力を借りて少しずつ自分の「力」を見直し始める。そして、「U」で乱暴をふるう「竜」と出会い、仮想空間を統治する「権力側」が「竜」を追い詰めるところから、話は大きく展開する。

 最後にすずの力を発揮させるのは、決して大きな「正義」ではなく、「弱者」に対する「共感」であり、その共感が一人の人間としての「正義感」とつながって、物語はエンディングを迎える。ここには、細田監督の「弱者に寄り添う優しさ」があふれ出ていて感動を誘う。この「弱者に寄り添う優しさ」は、これまでの「バケモノの子」や「おおかみこどもの雨と雪」に共通するテーマでもあり、これが現在の「多様性」や「ジェンダー」問題にもつながる「平和」への細田監督からのメッセージだと思う。平和は権力が作るものではなく、一人ひとりの「優しさ」が作るのだ。

 ただ、そのようなストーリーだけではなく、この映画は映像美と音楽の素晴らしさも見ものだ。ぜひ大きなスクリーンと音響効果のある映画館でみていただきたい。

「映画 太陽の子」 正面から「科学と戦争と青春」を扱う

 この作品「映画 太陽の子」は、昨年NHKで放映された同名のドラマを拡大映画化したものであり、三浦春馬の遺作としても話題を呼んだ。物語は、京都大学で原爆製造のための研究に取り組む実在の科学者グループをモデルに、そこに参加していた若い科学者「修」と、戦地から戻りまた出征する弟「裕之」、そして、二人の幼馴染である「世津」の3人の若者が、戦争状況が悪化する中で葛藤する物語である。

「映画 太陽の子」全国公開中 ©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
 日本軍の秘密の「原爆研究」というテーマは、原子力と核問題を専門とする筆者にとって、とても重要で魅力的なテーマであったので、昨年のドラマも、またその題材となったドキュメンタリースペシャル「原子の火を開放せよ~戦争に翻弄された核物理学者たち~」も逃さずに鑑賞した。ドキュメンタリーは、ち密な取材と関係者との直接のインタビューに基づき、重いテーマでありながらサスペンス映画をみるような、ストーリー性のあるドキュメンタリーで夢中になって鑑賞した。このような史実をきちんと踏まえたうえでの今回の映画化であることが、この青春映画に大きな重みを加えていると思う。
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