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魚が激減した瀬戸内海をどうやって変えるか

原因は「貧栄養化」、2回目の法改正で行政に求められること

山本民次 流域圏環境再生センター所長、広島大学名誉教授(水圏生態環境学)

銀色に輝く瀬戸内海=2019年8月5日、山口県下松市笠戸島
 瀬戸内海で魚介類がどんどん獲れなくなっていることをご存知だろうか? 最大の原因は「人為的貧栄養化」(Cultural Oligotrophication)である。これを改善するため、2015年の法改正に続き、今年(2021年)2回目の法改正が行われた。

赤潮の発生防止のために1973年にできた「瀬戸内法」

 貧栄養化ということの意味は、要は生物が育つために必要な栄養分が足りないということである。菜園作業を行ったことがある人は良く知っている通り、肥料を与えない限り、立派な作物は育たない。海の生物もまったく同様で、成長や成熟には窒素やリンなどの元素が必須である。それらが枯渇している。

瀬戸内海に発生した赤潮=1995年8月14日、兵庫県・淡路島沖で本社ヘリから

 1970年代、あざやかな赤潮の写真が毎日のように新聞紙面を賑わしていた。当時、瀬戸内海を含む閉鎖性海域の水質汚濁の改善が大きな課題であった。言うまでもなく、窒素やリンは富栄養化の原因物質であり、赤潮の発生につながった。環境庁が1971年に設立され、1973年には瀬戸内海の水質を保全する法律が成立した。5年後にはこれが恒久法となり、40年以上続いている。「瀬戸内海環境保全臨時措置法」(以下、「瀬戸内法」と略す)である。

 この法律はあくまでも「水質を良くすること(水質保全)」を謳ったものであり、そこに生息する生物のことは考えていなかった。というか、当時はおそらく、水質が良くなれば魚が増える、と思っていたのであろう。それがそもそもの間違いであった。最初に書いたように、生物の成育には栄養分が必要なのである。それを急ピッチで減らしてきたわけであるから、魚介類が育たなくなるのは当然である。

データが示す瀬戸内海の変化

図1:瀬戸内海に面する全府県で発生するリンの負荷量(発生負荷量)の推移。発生負荷量のすべてが海域に流入するとは限らないが、良い指標となる=環境省せとうちネットから引用
環境省せとうちネット

 図1には、瀬戸内海を囲む府県で発生するリンの量(発生負荷量という)の推移を示した。平成16年までしかデータが無いのが残念であるが、現在ではさらに減少しており、ピーク時のおよそ1/3である。窒素は少し遅れて1995年から削減され、1/2程度になっている。

図2:大阪湾および播磨灘の透明度の推移=国土交通省瀬戸内海総合水質調査のデータをもとに筆者作成
国土交通省瀬戸内海総合水質調査
 窒素やリンを減らしたことで、確かに海はきれいになった。それは「透明度」(水の透明さの度合い)という指標に表れている。図2に示したように、瀬戸内海の中でもとくに汚濁がひどかった大阪湾や播磨灘の透明度が改善されていることが明らかである。私が住む広島では、広島湾での赤潮発生はほとんど聞かなくなった。ただ、異常気象による大雨・洪水があると、窒素・リンが陸から海へ一気に放出されるので、赤潮を見ることがある。

 ところで、透明度が改善したら魚が増えたであろうか? これが問題の焦点である。図3には、瀬戸内海の魚介類生産量の推移を示した。瀬戸内法の成立からしばらく経った昭和61年(1986年)をピークに生産量は右肩下がりである。

図3:瀬戸内海における魚介類生産量の推移=環境省せとうちネットから引用
環境省せとうちネット

10年がかりで認められた「貧栄養化」原因説

 私がこのことの原因として

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