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テレビドラマのストーリー展開が、苦しい言い訳だらけになっている   

謎が作りにくい監視社会の未来がそこにあるから

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 推理小説や刑事ドラマ、サスペンス映画の類を、筆者はこどもの頃から長らく楽しんでいる。ただ最近になって、昔とちがうある「息苦しさ」を感じるようになった。その息苦しさの原因を掘り下げていくと、情報テクノロジーが私たちの生活をどう変えたか、また近未来はどうなるかという問いに行き着く。

作家は謎やスリルを作るのに苦労しているのでは? 

 息苦しさ、と書いたのは、インターネットや情報端末の普及によって、端的に謎やサスペンスが作りにくくなった、という意味だ。犯人の逃亡と追跡、刑事との攻防。連絡不通、突然の行方不明、予定外の変更や時間の遅れによる意図のすれ違い、待ち合わせに失敗、などなど。昔は刑事物やサスペンスに限らず、ラブコメでも「恋のすれ違い」を演出する手段には困らなかった。また巨大なビジネスチャンスをタッチの差で逃したり、スパイの超人的な身体能力でピンチを救ったりなど、謎とスリルを作る手段はいくらでもあった。

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 しかし昨今、作家は苦労しているのではないか。通信・監視などの技術が普及しすぎて、謎やすれ違いが作りにくい。ストーリーの展開がいかにも苦しい。それでも無理にすれちがい、トラブルを作り、偶然を作る。いわく、なかなか連絡が取れない、ほかに事情があって隠れていた、等々。だが観ている側からすると「そんなのスマホで連絡とれば一発じゃん」と言いたくなる。そこでさらに、スマホが壊れていた、電源が切れていた、取り上げられていた、山の中で電波が届かなかった、外国に留学していてしばらく連絡取れなかった、等々。

意味のない所で無理に体を張る場面を作った『24 Japan』 

 だがどれも、いかにも苦しい言い訳に聞こえる。筆者が最近観た範囲だと、米国からの輸入ドラマ 『24 Japan』(唐沢寿明主演、フジTV系列、2020年10月〜21年3月)などは特に苦しかった。出演者はそれぞれ熱演なのだが、体を張る意味のない所で、無理に体を張る場面を作っている。世の中、技術が進めばケータイが通じないエリアは狭まるし、インターネットが世界中に普及して、どこにいようとワンタッチで連絡が取れる。あるいはGPSで追跡できる。人類学者の友人から聞いた話だが、ケニアのサバンナではマサイ族の牛飼いの若者が、半裸でスマホをいじっているそうだ。1、2時間の連絡不能ならわかるが、双方が望んでいるのに何週間も連絡が取れないのはおかしい。遺産相続人が外国にいて、生きているらしいが何年も所在がわからないというドラマもあったが、リアリティがない。

 本人が身を隠したくても、通話記録・監視カメラ・GPS・ATM・ネットなどの痕跡から逃れることは、もはや不可能だ。キャッシュで買い物をすることさえ、やがて困難になる(もう中国ではそうなっているという)。実際、現実の凶悪事件の犯人も、高跳びして逃げ切ろうとし、ほぼ確実に捕捉され、捕まっている。その現実は刑事ドラマにも反映され、事件解決のいとぐちもたいてい、監視カメラや車のドライブレコーダー他、デジタルの行動記録だ。「監視カメラに映っていたのなら、なぜもっと早く捕まえないの」と、天邪鬼を自認する筆者は突っ込む。要は2時間ドラマの長尺に耐えうる謎や追跡を連発するのが、苦しいのだ。

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 この点で逆に興味深かったのが、18年4月に起きた脱走事件だ。愛媛県今治市にある刑務所の作業場を脱走した犯人が、島を経て本州側に自力で泳ぎ渡り、住民が留守がちな民家の屋根裏に潜んで、じっとしていた。それが功を奏したのか、大捜索網にもかからず3週間以上杳(よう)として行方が知れなかった。つまりこれだけデジタル監視の網が張り巡らされると、むしろ「高飛び」はあり得ない。

 もっとゆるいハプニング番組でも、似たことが起きている。たとえばローカル路線バスの旅。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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