新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としての可能性とリスク
2021年09月08日
ツイッターを眺めていると、新型コロナウイルスへのイベルメクチンの効果を熱狂的に信じている人たちが日米にいることが分かる。イベルメクチンは寄生虫の駆除薬として人間や家畜に広く使われてきているものだ。元となるエバーメクチンを放線菌から発見した大村智博士は、その功績によりノーベル賞を受賞されており、抗寄生虫薬としての効果に疑いはない。
しかし、なぜ寄生虫の特効薬がウイルスに効果があると考えられているのだろう? イベルメクチンをめぐる意見は疫学調査や臨床試験の結果をもとに盛んに発信されているが、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効く根拠となる分子メカニズムを解説した日本語解説記事を目にしたことはなかった。
私は染色体を研究する細胞生物学者であるが、日本の学界との利害関係がない立場にあるからこそ、むしろバイアスを排した見方ができる面もあると思い、この疑問について勉強して見えてきたポイントを紹介することにした。
まずは、何故イベルメクチンが寄生虫への特効薬なのかをおさらいしよう。
イベルメクチンは、哺乳類の細胞膜チャンネルであるグリシン受容体、GABA受容体、ニコチン受容体にも「化学的には」作用することができる。しかし、脳・脊髄などの中枢神経に存在するこれらの受容体チャンネルに作用するには、血液脳関門や血液脳脊髄液関門を突破する必要があるが、通常量のイベルメクチンを経口服用してもこれを突破できず、脳神経が麻痺することはない。これがイベルメクチンの抗寄生虫薬として極めて優れた点だ。ただ、イベルメクチンを大量摂取すると血液脳関門が漏れることもある。
では、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効果を発揮するとすれば、どのような分子メカニズムによるのだろう? 大村智博士のインタビュー記事では、以下の3つの可能性が指摘されている。
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