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イベルメクチンは何に効くのか?

新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としての可能性とリスク

船引宏則 ロックフェラー大学教授(細胞生物学)

 ツイッターを眺めていると、新型コロナウイルスへのイベルメクチンの効果を熱狂的に信じている人たちが日米にいることが分かる。イベルメクチンは寄生虫の駆除薬として人間や家畜に広く使われてきているものだ。元となるエバーメクチンを放線菌から発見した大村智博士は、その功績によりノーベル賞を受賞されており、抗寄生虫薬としての効果に疑いはない。

拡大抗寄生虫病薬のイベルメクチン=shutterstock.com

 しかし、なぜ寄生虫の特効薬がウイルスに効果があると考えられているのだろう? イベルメクチンをめぐる意見は疫学調査や臨床試験の結果をもとに盛んに発信されているが、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効く根拠となる分子メカニズムを解説した日本語解説記事を目にしたことはなかった。

 私は染色体を研究する細胞生物学者であるが、日本の学界との利害関係がない立場にあるからこそ、むしろバイアスを排した見方ができる面もあると思い、この疑問について勉強して見えてきたポイントを紹介することにした。

寄生虫に効果がある理由

 まずは、何故イベルメクチンが寄生虫への特効薬なのかをおさらいしよう

拡大細胞膜にあるチャンネルの模式図=shutterstock.com
 細胞膜には、特定の刺激が来ると口を開いて物質を通すチャンネルがいくつもある。寄生虫である線虫がイベルメクチンにさらされると、神経細胞や筋細胞、生殖管細胞などの細胞膜上に存在する「グルタミン酸作動性クロライドイオンチャンネル」にイベルメクチンが結合してチャンネルが解放された状態になってしまう。これにより、線虫は麻痺して死んでしまったり、生殖できなくなったりする。このチャンネルは昆虫にも存在するので、イベルメクチンはダニによる疥癬にも効果を発揮する。

 イベルメクチンは、哺乳類の細胞膜チャンネルであるグリシン受容体、GABA受容体、ニコチン受容体にも「化学的には」作用することができる。しかし、脳・脊髄などの中枢神経に存在するこれらの受容体チャンネルに作用するには、血液脳関門や血液脳脊髄液関門を突破する必要があるが、通常量のイベルメクチンを経口服用してもこれを突破できず、脳神経が麻痺することはない。これがイベルメクチンの抗寄生虫薬として極めて優れた点だ。ただ、イベルメクチンを大量摂取すると血液脳関門が漏れることもある。

コロナに効くメカニズムの3つの可能性

 では、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効果を発揮するとすれば、どのような分子メカニズムによるのだろう? 大村智博士のインタビュー記事では、以下の3つの可能性が指摘されている。

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筆者

船引宏則

船引宏則(ふなびき・ひろのり) ロックフェラー大学教授(細胞生物学)

1967年、京都市生まれ。1990年京都大学理学部卒業。1995年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員、ハーバード大学博士研究員を経て、2002年ロックフェラー大学助教授、2007年同准教授、2014年より現職。サールスカラー賞、シンシャイマースカラー賞などを受賞。専門は染色体・細胞生物学。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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