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日本は本当に主権国家なのか?

米軍による一方的なPFOS汚水排出が問う国の存立基盤

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 8月27日、沖縄の地元2紙の1面トップに「PFOS汚水排出」「米軍〝だまし討ち〟」「国・県・市寝耳に水」の大きな見出しが並んだ。在沖海兵隊によるPFOS問題再発の報に接した県民の偽らざる心境は、「またか!」だったのではなかろうか。

 しかし今回の汚水排出は、昨年の排出とは性格を異にする重大な排出である。昨年のPFOS汚水流出がハプニングであったのに対し、今回の排出は国や県との協議を無視して米軍が一方的に通告して行ったものであり、国家主権にかかわる重大事態である。

ハプニング排出

 昨年の4月11日の地元紙の1面トップは、大きな見出しで「普天間基地外に泡消火剤」と前日10日の泡消火剤流出事故の一部始終を報じた。ネットには、風に流されて、住宅街や排水路周辺の空中を漂う数多くの泡の動画が、いくつもアップされた。漏出した泡消火剤は総量で約23万リットル(ドラム缶1135本)という膨大なもので、そのうち14万リットル超が基地外に流出したという。

米軍普天間飛行場から出た泡消火剤は周辺の河川を汚染した=2020年4月11、沖縄県宜野湾市米軍普天間飛行場から出た泡消火剤は周辺の河川を汚染した=2020年4月11、沖縄県宜野湾市

 その後、この泡消火剤流出は、コロナで外出が不可能となった米兵の慰安のために催された格納庫前でのBBQパーティーが原因で、格納庫の熱感知器が作動して泡消火剤流出となったのだが、誰も停止方法を知らなかったのだということが判明する。更にその後、実は類似の事故が以前にもあったということも表に出てくるのだからお話にならないお粗末さであった。

 この泡消火剤流出事故の一部始終を見る中で、沖縄県民は、一方では米軍の有害物質管理のいい加減さと地元沖縄の人々や自然環境への配慮のなさに強い憤りを覚え、他方では米軍に何も出来ずに事態を放置してきた日本政府に「いつまで米国の属国なのか」との怒りをたぎらせたのであった。

 何しろ45万県民に飲料水を供給している北谷浄水場の原水の比謝川がPFOSで高度に汚染していることが判明した2016年以来、同浄水場を管理している沖縄県企業局が、汚染源と思われる嘉手納基地への立ち入り調査を沖縄防衛局を介して申し入れてきたにもかかわらず、日米地位協定が障害となって今日に至るまでらちがあかないでいるからである。

 しかし、昨年4月のPFOS汚水流出は格納庫前でのBBQパーティーが原因となったハプニング排出であった。それに対し今回の排出は、排出方法の是非について、国、県、米軍が協議を進めている中での一方的な排出であり、国・県・市にとってはまさに「寝耳に(排)水」であった。

一方的排出に至る経緯

 在沖米海兵隊は、8月26日、米軍普天間飛行場で保管していた有機フッ素化合物PFOSやPFOAを含む汚水を浄化した上で下水道へ排水したと発表した。

米軍普天間飛行場=2021年7月、沖縄県宜野湾市、朝日新聞社機から 米軍普天間飛行場=2021年7月、沖縄県宜野湾市、朝日新聞社機から

 この汚水排出を巡っては、7月8日に米海兵隊が下水道への放出を日本側と調整中であると発表し、岸信夫防衛相が翌9日の記者会見で「処分方法を日米間で協議している」と明らかにした。そして7月13日に国や県が処理方法について基地内で米側から説明を受け、19日には国や県が浄化後の水をサンプリングしている。基地内で処理システムの説明を受けた際には、海兵隊は、処理計画が決まるまでは排水しない考えを示していたという。

 また、採取した汚水のサンプルの分析結果を、国、県、米軍の三者が同時に公表する予定であった。にもかかわらず海兵隊は、8月26日、分析結果はPFOSとPFOAの合計で1リットルあたり2.7ナノグラムであったと独自に報道発表し、その30分後に排出を開始したのである。

 沖縄県と地元宜野湾市は、海兵隊の汚水排出を受け、8月26日、水質調査のためにそれぞれ採水している。また県は、7月19日に採水したサンプルの分析結果は1リットルあたり2.5ナノグラムであったと公表している。

想定されていない下水道への排出

 米海兵隊は、1リットルあたり2.7ナノグラムは日本の暫定指針値・目標値の1リットルあたり50ナノグラムを大きく下回り、安全であると主張する。

 しかし、

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